よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「全ては常に変化している。君達も鉱物も、地球も宇宙も。全ての化学反応が止まるとしたら、それは世界の終焉(しゅうえん)だろう。その時こそ、本当の意味の永遠が訪れるのかもしれない」
 石精の言葉に、石倉さんの顔は青ざめる。彼女が望んでいる永遠は、そんな空虚なものではないのだろう。
「反応を遅らせることは出来る。しかし、反応を止めることは出来ない。それが自然だ。生まれるのも、朽ちるのも、その過程を見守るのもまた、相手に寄り添っているということになるのではないだろうか」
「石の変化を見守るのが、石に寄り添うことになる……」
 石倉さんは、目を大きく見開く。僕もまた、その言葉にハッとした。
 思い出だって、幾ら繋(つな)ぎ止めようとしても、少しずつ風化してしまう。僕の祖父の記憶も、石倉さんの祖父の記憶も。祖父と一緒に逝(い)ってしまった愛犬のメノウとの日々も、思い出せなくなっていることが増えているはずだ。
 だけど、その変化も自然なことで、仕方がないことだと思えばいいということだろうか。石が別のものに変化するように、別の思い出が次々と出来て、大切なものが増えた証拠だと思えば。
 忘れたことへの寂しさもまた、変化の一つなんだろうか。そういったものと向き合いながら、少しずつ良い方向に変わって行けるようにすればいいのだろうか。良い方向に行けるかどうかは、自分の努力次第なのだろうけど。
「もし、黄鉄鉱が崩れてしまっても、それは消えたわけじゃないしね……」
 石倉さんは木箱を見つめる。形は失われて、違う物質になってしまうかもしれないけれど、黄鉄鉱だったものが消えたわけではない。
「だから、お祖父ちゃんとの思い出が消えたわけじゃないし、宝物が無くなったわけじゃないんだろうね」
 石倉さんは、自分を納得させるように言った。
「それでも、崩れちゃうのは寂しいから、出来るだけ湿気の無いところで保管するね」
「そうしてくれ」
 石倉さんの言葉に、表情が少ない黄鉄鉱の石精は、少しだけ微笑んだ気がした。
 次の瞬間、辺りにあった煌びやかな黄鉄鉱も、坑道も消えて、僕達は屋上で立ち尽くしていたのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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