よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「樹(いつき)。これ、どうする?」
 日曜日の朝、勉強をしに自室へ戻ろうとした僕は、父に声を掛けられた。
「これって?」
「絵画なんだけど」
 父は、立派な額に入れられた絵画を僕に見せる。美しい夜空と砂漠が描かれた、アラビアンナイトのワンシーンのような絵だ。
 一目見てすばらしい絵だということは分かったけれど、生憎(あいにく)、美術的な目は養われていない僕には、どんな価値があるのかなんて分からなかった。
「どうしたの、それ」
「お祖父(じい)ちゃんが買ったものでね。土蔵の奥にしまわれてたんだ」
 朝早くから土蔵にこもっていた父は、絵画と土蔵の方角を交互に見やった。
 祖父の、鉱物以外の遺品整理は、父がやることになっている。鉱物と同じく、一度に出来る量ではないため、休みの日を利用して少しずつ進めていた。
「お祖父ちゃん、絵画も買ってたんだね」
「そこまで熱中はしてなかったみたいだけどね。お父さんもほとんど見たことがなかったし、少し集めただけだったんだろうな」
 父は絵画を手にしたまま、苦笑した。「で、どうする?」と、父は話を戻す。
「どうするって言われても、僕の部屋に飾るわけにはいかないし……」
「お前がいいと思うなら、廊下に飾ってもいいんだけど」
「廊下、ねぇ」
 美しい夜空と、ごく庶民的な家のありふれた廊下を見比べる。
「うちには、ちょっと立派過ぎる気がする……」
「……まあ、父さんもそう思う」
 父は、苦笑しながら頷(うなず)いた。
「だからこそ、お祖父ちゃんは土蔵にしまっちゃったのかもな」
「イスズさんのところに引き取って貰(もら)った方が、相応(ふさわ)しい人の手に渡りそうだよね」
「ああ。山桜(やまざくら)さんのところか」
 山桜骨董(こっとう)美術店という、近所の骨董屋さんのことだ。僕達が持て余してしまった祖父の土蔵の品々は、そこの店主であるイスズさんに引き取って貰っている。イスズさんは若くして店主になり、目利きでもあるけれど、複雑な事情があるせいか、それとも元々の性格のせいか、少し偏屈で怖い。
 根は面倒見が良くて、優しい人なんだけど。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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