よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「お前も、すっかり石好きになったな」
 父は、僕を見つめる。嬉(うれ)しそうでありながらも、ちょっとだけ困ったような、複雑な眼差(まなざ)しだ。
「大学では、地学を学びたいんだって?」
「うん。地学が学べる大学、律さん達から教えて貰って……。将来はそこに入学したいなって思ってるんだけど」
「そうか……。将来は、そういう研究をしたいんだな……?」
「出来たら良いなって……思ってる」
 僕は頷きながらも、父の顔色を窺(うかが)う。
 父は、少しだけ心配そうな顔で、こう言った。
「お前と同じように、その道を目指している人はいる。それと比べて、研究者の数は多いとは言えない。狭き門だと思うぞ」
「うん……」
 狭き門だから、希望している職に就けるとは限らない。その門の中に入れなかったら、どうなってしまうのか。地学を活(い)かせそうな職業は、ちょっと探しただけだと見つからない。
 もし、希望が通らなかったらどうする。父の目は、僕にそう尋ねているようだった。
 だけど、僕はその答えをまだ持っていない。しばらく黙っていると、父は小さく溜息を吐(つ)いた。
「まあ、お前の人生だからな。俺も母さんも、応援するさ」
「お父さん……」
「進路を変えたい時は、遠慮なく言え。難しいなと思ったら、諦めて別のところに行くという選択肢もある」
 父は、そう前置きをしてから続けた。
「だけど、お前が選んだ道は、責任を持って進まなくちゃダメだぞ。妥協せず、本気で行くんだ。本気で頑張った末に、難しいなと思ったら仕方がない。でも、本気を出さずに諦めて欲しくないな」
「うん。それは、勿論(もちろん)」
 僕は、精一杯力強く頷いた。それを見た父は、安心したように微笑(ほほえ)む。
「お前が頑張るのなら、父さんも母さんも応援するからな。相談にならば、いつでも乗るぞ。まあ、石のことは分からないけど」
 父は苦笑する。僕もつられて笑ってしまった。
「石のことは、律さんに相談するよ」
「そうするといい。あと、父さんが知っておいた方がいいことがあったら教えてくれ。この前みたいに、大事な石を手放さないようにしないとな」
「うん」
 僕は笑顔で頷く。
 そのまま、額に収められた夜空をどうするか母に聞きに行く父を、温かい気持ちで見送ったのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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