よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 中学校のホームルームで、進路の話になった。
 プリントに将来希望する職業を記入し、提出するという流れだ。宿題になってしまったそれを前に、僕達は悩ましい顔をする。
「将来の夢かぁ。難しいなぁ」
 近くの席で学(まなぶ)がぼやいた。
「どうして」と僕が尋ねる。すると、学は珍しく眉根を寄せて答えた。
「俺、サッカー選手になりたくてさ」
「いいじゃないか」
「でも、おふくろは勉強しろってさ。大学を卒業して、それから目指せって言うんだ」
 でも、それじゃあ遅いんだよな。と学は頬を膨らませた。
「俺よりも上手(うま)いやつなんて沢山いるし、そういうやつらよりも上手くならないといけないのに」
「狭き門だから……」
 僕は、父の言葉を思い出した。
「そうそう。なれなかったらどうするんだって言うんだ。そんなの、その時はその時だろって思うけどな。失敗した時のことを考えて出遅れちゃったら意味無いだろ?」
「確かに……。でも、学のお母さんの気持ちも、ちょっと分かるな」
「えー。お前まで勉強しろって言うのかよ。うらぎりものー」
「ご、ごめん。そういうわけじゃ……、いや、そういうわけなのかな」
 僕は首を傾(かし)げてしまう。
「うちの父さんも、同じようなことを考えてたんじゃないかと思ってさ。一応、僕の希望は尊重してくれているみたいなんだけど」
「へぇ、いい親父(おやじ)さんじゃないか」
「でも、自分で選んだ道は責任を持って進めって。ちょっとプレッシャーを感じるね」
「失敗したら自分の責任ってことか?」
「そうなるね。だから、真剣に考えないといけないと思って」
 僕は、渡されたプリントに視線を落とす。将来の夢は決まっているけれど、責任という二文字が重々しくて、そこに希望を書けないでいた。
「樹は何になりたいんだ?」
 学が問う。彼の真っ直ぐな眼差しを前に、僕は少しだけ躊躇(ためら)うように答えた。
「地学を勉強して、研究員になりたくて」
「研究員?」と学は目を丸くする。
「そう。研究員……」
 僕は何故か気まずい気持ちになってしまい、コッソリと頷いた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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