よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 研究員と言っても、白衣を着て実験室にかじりつくようなイメージとは違う。各地を歩き回って巡見し、時に山に登ったり、時に土にまみれたりするような仕事をしたかった。
 フォッサマグナミュージアムの学芸員さんのように、人に石の素晴らしさを教える仕事をしたかった。
「僕は鉱物に出会って、鉱物の美しさとか地球の偉大さを知ったからさ。そういうの、知らない人に教えることが出来たら良いなって」
「へぇ、いいじゃん!」
 学はパッと表情を輝かせ、僕の夢を肯定してくれる。
「俺も、樹に鉱物の面白さを教えて貰ったしな。石が薔薇(ばら)の形になるとか、やべーだろって未(いま)だに思ってる」
 学は、自分のコレクションである砂漠の薔薇を思い出しているのだろう。実感がこもった相槌(あいづち)を何度もしていた。
「勉強も、さ。そういう、凄いと思うことを理解するのに役立ってるんだよね。花崗岩(かこうがん)がどうのとか、理科でちょっとだけやったから、鉱物の解説を見た時に助けになってるし」
「じゃあ、俺が大学に行くってことも……」
「場合によっては、必要なのかも。サッカーって、練習をしてテクニックを磨くことも必要だと思うけど、チームプレイだからコミュニケーション能力が高い方が良いとか、ボールの動きを予測出来た方が良いとかがあるかもしれないね」
「うーん……」
 学は納得したような、反論したいような顔をして腕を組む。
「僕には、何が正しいかは分からないけどね。でも、物事って色んな要素が絡んで来るから、幅広くやっておいて損はないと思う。鉱物だって、色んな要素があってあの形と色になるわけだしね」
 例えば、純粋な蛍石(ほたるいし)は、無色透明だ。
 しかし、地質などの条件によって不純物が混ざると、緑であったり紫であったり、黄色やピンクという色とりどりの姿になる。そして、立方体の単結晶になったり、群晶になることもあったり、天然で八面体になることもある。それどころか、球形になるものもあるそうだ。
 様々な要素が組み合わさって、それぞれの個性が現れる。そういう意味では、人間も鉱物も変わらないのだろう。
 そして、僕も学も。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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