よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「こうすれば正しいなんてこと、きっと無いんだよ。でも、僕達には意思があるから、なりたい姿になれるように努力するしかないんじゃないかな」
「成程(なるほど)なぁ。樹、先生みたいだな!」
 学は表情を輝かせる。「そ、そんなことないと思うけど」と僕は咄嗟(とっさ)に謙遜してしまった。
「なんて言うか、俺よりも人生を長く生きてる感じがするぜ。酸いも甘いも嚙(か)み分けたっていう……」
「そんな中学生、嫌だよ……」
「それは冗談として、大人っぽいなーと思うのは本当だぜ。人生、達観してる気がする」
「達観、ねぇ」
 ふと、土蔵に佇む友人の姿を思い出す。
 雫は、気が遠くなる年月を経て生まれた水晶の精霊のような存在なので、僕と同い年くらいの見た目をしているのに、凄く大人っぽかった。僕は最近、雫に物事を教わり、雫に人生を導かれてばかりだった。
 そんな雫の頼もしさに、ほんの少しでも近づけていればいいのだけど。
「取り敢(あ)えず、俺の将来の夢は、サッカー選手って書いておくぜ。ここになりたくないものを書いてもしょうがないし」
「それで良いと思う」
 プリントをひらひらさせる学に、僕は頷いた。
「他のやつは、公務員とか医者とか書いててさ」と、学は少し口を尖(とが)らせた。
「いいじゃないか。どっちも世間にたくさん貢献する仕事だし」
「でも、その理由が、潰しがきくからだって言うんだぜ」
「……その職業になりたいというよりも、失敗しても大丈夫そうな仕事につきたいってこと?」
 僕の問いに、学は「多分」と頷いた。
「まあ、ユーチューバーやeスポーツの選手になりたいってやつもいたけど」
「その辺の職業、昔はなかったもんね」
「そうそう。それは自分で選びましたって感じだよな」
 学は、感心するように頷いた。
「ん? それじゃあ、もしかして、潰しがきくっていう職業は、他人から勧められたってこと……?」
「そう。俺と同じように、親に言われてそっちに進むやつが多いみたい。まあ、最初から狙ってたやつもいるだろうけど」
「親に言われたからそこを目指すって……。それで、いいのかな」
「俺もどうかと思うけど、みんなの家が、樹の家みたいに理解があるわけじゃないってことさ」
 学が苦笑まじりでそう言った。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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