よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「砂漠の薔薇だって、確かそうだろ?」
 砂漠の薔薇は、鉱物の元となるミネラル成分が、周囲の砂を取り込みながら薔薇のような形に結晶化したものである。元々の鉱物は、石膏(せっこう)であったり、重晶石(じゅうしょうせき)であったりする。これは、その土地のミネラル成分によって左右されるのだが……。
「日本では、砂漠の薔薇が出来ないしさ。環境によって出来る鉱物が違ったり、そもそも出来なかったりする。家の事情も、それに近いものさ」
 学はそう言って、肩を竦(すく)めた。
「確かに」
 僕と同じく鉱物を例に出した学に、頷くことしか出来なかった。
「だけど、お前が言ったように、俺達には意思があるしな。どんな環境でも、砂漠の薔薇を咲かせたいよなぁ」
「……そうだね」
 学の前向きな言葉に、僕は思わず微笑んだ。学もつられるように微笑んだ時、見計らったかのようなタイミングで、次の授業のチャイムが鳴ったのであった。

 その日も、いつもと変わらない放課後が訪れた。
 学は部活へと向かい、僕は図書室で本を借りてから昇降口へと向かう。図書室で自習をしようと思ったけれど、思いのほか賑(にぎ)やかだったので、仕方なく家路につくことにした。
「うちに帰ると、ついつい、土蔵に行っちゃうんだよね……」
 落ち着いて雫と話したいので、会う前に宿題を済ませておきたかった。家に帰ると、居ても立ってもいられずに土蔵に向かってしまうから。その結果、何となく頭の隅に宿題のことをチラつかせながら、雫と話すことになってしまう。
「雫と会うのを、我慢すればいいんだけど」
 しかし、僕が土蔵に赴くと、雫は本当に嬉しそうに迎えてくれる。僕はこの瞬間も、雫の笑顔に会いたくてしょうがなかった。
 いっそのこと、土蔵に宿題を持ち込んでしまおうか。雫に教えて貰いながら、宿題をやるのもいいかもしれない。
 そう考えながら昇降口を後にし、校門へ向かう時、ふと、気になる人影を見つけた。
 校庭の一角で、画板を膝に乗せて絵を描いている男子生徒がいる。僕の学年では見たことがない生徒なので、二年生か一年生だろう。
 ほっそりとした身体で画板に喰らいつくようにしながら、黙々と筆を動かしては、首を傾げていた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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