よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 グラウンドで部活動をしている生徒達の様子でも描いているのだろうと思ったけれど、視線は駆け回る生徒達ではなく、度々、空に向けられていた。
「何か、あるのかな?」
 僕も空を見上げてみるものの、青空が広がっているばかりだ。それでも、その男子生徒は何度も空を見上げている。
 僕は、その男子生徒が気になってしょうがなかった。
 邪魔をしないようにと、足音を忍ばせて近づいてみる。画板の上に広げられた絵はとても色鮮やかで、どうやったらこの色が出せるのだろうかと思った。
「わっ」
 男子生徒は振り向くと、声をあげた。
「ご、ごめん!」
 筆を落としそうになる男子生徒に、僕は思わず頭を下げる。
「何を描いているのか、気になっちゃって。邪魔してごめんね」
「い……いえ」
 男子生徒は口ごもり、目をそらす。
 僕は機嫌を損ねてしまったかなと思ったけれど、そうではないらしい。彼は、照れ隠しでもするかのように、手にした筆をしきりに弄(いじ)っていた。
「綺麗(きれい)な空だね」
 僕は、彼の絵を褒めてみる。実際、彼の絵は見事だった。
 吸い込まれそうなほどに深い青。それには奥行きがあり、鮮やかさも持ち合わせていた。
 男子生徒は、恥ずかしそうに俯(うつむ)いてしまう。
「これは、夜空?」
「……はい」
 男子生徒が描いていたのは、今、僕達の上にある空ではなかった。
 ぼんやりと明るい、夜空だった。夜空だと分かったのは、そこに星が鏤(ちりば)められていたからだ。父が土蔵から見つけて来た絵画のようだなと思った。
「本当は、もっと綺麗だったんです」
「へぇ?」
 男子生徒が話し始めたため、僕は隣にしゃがむ。
「今年の夏、祖母の家に行ったんです。東北の田舎の方なんですけど」
 男子生徒は、筆を弄りながらもぽつぽつと話してくれた。
 祖母の家で、家族で天体観測をしたこと。周りに人工的な明かりはほとんどなく、星空がとても綺麗だったということ。それに感動して、写真を撮ろうとしたけれど、自分の携帯端末では綺麗に撮れなかったということを。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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