よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「だから、その時の感動を絵にしようと思ったんですけど……」
「そうだったんだね……」
 彼の絵は充分綺麗だと思ったけど、本物はその比じゃなかったのだろう。
 だけど、彼は夜空を表現出来なかったことだけで落ち込んでいるわけではないように思えた。
 筆をしきりに弄り、何かを言いたそうにしている。僕は、「他に、上手くいかないことがあったの?」とストレートに尋ねてみた。
「じ、実は……」
 男子生徒は、初対面の相手に打ち明けるのを躊躇(ちゅうちょ)している様子だったけれど、すがりつくように早口でまくし立てた。
「自分は、美術部なんです。それで、コンテストが近くて。そのコンテストで結果を残せれば、親は将来の夢を認めてくれるって言ってくれたんですけど……」
 追い詰められたような表情で、彼はそう言った。
 彼には夢があるのだが、親には認められていない。だから、コンテストで結果を残したい。だけど、自分が表現したいものが表現出来ないということか。
「それで、ちょっと焦ってるんだ?」
 僕の問いに、男子生徒は頷いた。
「君の絵は本当に綺麗だと思うよ。だけど、これじゃあ君は納得出来ないんだよね」
「……そうです」
「うーん。美術に詳しかったら、何かアドバイスが出来るんだけど」
 腕を組んで考え込む僕に、「いいんです」と男子生徒は首を横に振った。
「話を聞いて貰えただけで、ちょっと気が済んだので。すいません、えっと――」
「僕は草薙(くさなぎ)樹。君は?」
「二年生の高木啓(たかぎけい)です」
「宜(よろ)しく、高木君」
「こちらこそ……」
 僕は握手をしようと右手を差し伸べたけど、高木君は筆から手を離さなかった。
「ごめん、馴(な)れ馴れし過ぎたかな」
「い、いえ。その、人見知りで」
「そっか。じゃあ、仕方ないね」
 僕は苦笑しながら、手を引っ込めた。石も人も、それぞれに個性がある。無理強いをしてはいけない。
 高木君は、じっとこちらを見つめている。物言いたげな様子に、「どうしたの」と尋ねてみた。
「あっ、すいません。草薙先輩って、大人っぽいなと思って」
「そ、そうかな」
「あと、キラキラしてるっていうか……」
「うーん」
 誰がどう見てもキラキラしている男の子のことを毎日見ているので、全く実感が湧かなかった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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