よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「緑青(ろくしょう)と呼ばれる色があるよね?」
「う、うん。深みがあって、植物の葉っぱみたいな色だよね」
「あれも、鉱物を原材料にして作ることが出来るんだ。その原材料になるのは、この石でね」
 雫が取り出したのは、深い緑の美しい鉱物だった。表面が研磨されており、滑らかになった部分からは孔雀(くじゃく)の羽根のような模様が浮かび上がっていた。
「これって確か、孔雀石(せき)だっけ」
「そう。美しい色と模様だから、この石で作られた箱なんかも流通しているのさ。この子は、銅の酸化物から成る二次鉱物なんだよ」
「この色、別の何処(どこ)かでも見たことがあるような」
 僕は記憶の糸を必死に手繰り寄せようとする。そんな僕に、雫はくすりと微笑んだ。
「緑青は、君達には身近かもしれないね。十円玉が酸化して錆(さ)びると、この色が浮かび上がるんだ」
「ああ! それだ!」
 僕は思わず、声をあげてしまった。
 偶(たま)に、使い込まれた十円玉に、妙に色鮮やかな緑色の何かが付着していることがある。あれは、十円玉の原料である銅が化学反応を起こしたものだったのか。
「他にも、藍銅鉱(らんどうこう)という青い鉱物があってね。そちらは群青(ぐんじょう)と呼ばれる色の原料になっているんだよ」
 雫はそう言って、色鮮やかな青い石を取り出す。
「わぁ……」
 煌(きら)びやかな青い塊が目の前に現れたので、僕はつい感嘆の声を漏らす。裸電球の光をキラキラと反射させて、美しかった。
「あれ? 裏側にある緑の部分は?」
 藍銅鉱をひっくり返すと、緑になっている部分も見受けられた。孔雀石の緑とよく似ているので、両者を見比べてしまう。
「そこは、孔雀石さ。藍銅鉱と孔雀石は、成分がほんの少し違うだけでね。化学式がよく似た鉱物なんだよ」
 どうやら、長い間水分に晒(さら)され、炭酸が抜けると孔雀石になるらしい。見事な緑と青の石は、色も佇まいも全く違うのに、雰囲気は少し似ている気がした。
 その二つは、尾形光琳(おがたこうりん)がカキツバタを描いた有名な日本画『燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)』にも使われているようで、花は藍銅鉱、葉は孔雀石で彩られているのだという。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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