よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「そう言えば、水晶は絵の具にはならないの?」
「僕達は、粉末にすると無色になってしまうからね。アメシスト(紫水晶)だろうがシトリン(黄水晶)だろうが、みんな同じさ。色の成因が、銅や硫黄(いおう)を含む子達と違うから……」
 雫は、少しばかり残念そうだった。
「組成によって、絵の具に出来る鉱物と出来ない鉱物があるのかな」
「色がついた成分が含まれている鉱物は、絵の具にし易いのかもしれないね。後は、加工のし易さや産出量が関わって来るだろうけれど。一先(ひとま)ず、条痕を確認した時に、色がつく子は候補になるだろうね」
「あ、成程。条痕の色がそのまま絵の具になるようなものなんだ……!」
 条痕とは、白い素焼きの磁器などに鉱物をこすりつけて出来た痕のことだ。鉱物を同定する時の方法の一つだけど、まさか、そんな見方もあるなんて。
「じゃあ、藍銅鉱や孔雀石の条痕は、群青や緑青の色になるんだね」
「そういうことさ」と雫は頷く。
「確かに、水晶は色がついていても、条痕が白だよね……」
「そういうことさ……」と雫は眉根を下げた。
「蛍石も、あんなに色が豊富だけど、どの条痕を見ても白だもんね」
「純粋な水晶や蛍石は、無色透明だからね。だけど、純粋な藍銅鉱も孔雀石も辰砂も、ちゃんと色がついている。そう考えると、元から色がついている石は、絵の具になる可能性があるのだろうね」
 雫の言うことは一理ある。僕は、図鑑で確かめた情報や、自分で確認した条痕の色を思い出してみた。
「硫黄で思い出したんだけど、黄鉄鉱(おうてっこう)も条痕に色がつくよね。黒なんだけど、ちょっと緑っぽいとか、ちょっと褐色っぽいとか……」
「確かにそうだね。でも、黄鉄鉱ほどの硬さだと、粉末にするのも一苦労だと思うけど」
「あ、そっか……」
 黄鉄鉱は、水晶よりも柔らかいけれど、鉄よりも硬い。それに、特別鮮やかな色でもなかったので、絵の具向きではない。
「同じ硫黄から成る石ならば、ラピスラズリ(瑠璃)が有名だね」
「ラピスラズリ……」
 僕も、何度か耳にしているし、目にしたことがある石だ。藍銅鉱に負けないほどの美しい青を持ち合わせている。
「ウルトラマリン(群青色)と呼ばれている色の鉱物でね。達喜のコレクションの中に、原石をまとめて購入したものがあったはずだよ。そのうちの一つを、その子に譲ってあげるといい」
 雫はそう微笑んだかと思うと、辰砂が入っていた箱のすぐ近くにあった大きな木箱を漁り始めたのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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