よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

***


 翌日の放課後、僕は高木(たかぎ)君を探していた。
 彼について知っているのは、二年生ということと美術部ということ、画家を目指していることくらいだ。クラスは分からないので、放課後に美術部がいそうなところを探すしかなかった。
 だけど、美術室に彼の姿はなかった。
 その代わり、他の部員が高価そうな絵の具を並べて、美しい絵を描いていた。僕と同じ絵の具を使っている部員もちらほらといるけれど、少しだけ肩身が狭そうに教室の隅にいた。
 美術部というだけあって、良い絵を描く人が多い。でも、高木君の絵と良い絵の具を使っている部員の絵を比べてみても、高木君が劣っているとは感じなかった。
 素人目だけど、彼らは大差ないように思えた。寧(むし)ろ、高木君の筆遣いの方が活(い)き活きとしていたし、奥行きがある色味を出せていた。
「高木君は、自信が無いのかな……?」
 人によって、環境は様々だ。
 しかし、その環境が劣っていると思うと、自分までも劣っていると思い込んでしまうのだろう。
 高木君に必要なのは、高い絵の具じゃないのではないだろうか。
「だったら、尚更(なおさら)……」
 僕は、両手のひらで包めるくらいの小箱に視線を落とす。彼にどんな影響を及ぼせるか分からないし、縁が繋(つな)がるのか否かも分からないけれど、自分に出来ることはしたかった。
「あの、すいません……!」
 僕は、美術部の部員に声を掛ける。
「二年生の高木君を探しているんですけど」
 僕の声を聞いた部員達は、顔を見合わせる。その中の、色数の多い絵の具セットを使っていた男子生徒が口を開いた。
「高木君と知り合いですか?」
「ええ、まあ……」
 知り合いと言っても、昨日会ったばかりだ。僕は曖昧に頷(うなず)いた。
「高木君なら、校庭でコンクールのための絵を描いていると思います。あまり、美術室で描きたがらなくて……」
 男子生徒は心配しているようだった。彼はどうやら、気付いていないらしい。自分が持っている豪華な絵の具セットが、高木君を苦しめていることを。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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