よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「どうしてここに?」
「高木君を探してて……」
 気まずいなと思いつつも、僕は高木君のそばに転がっている石に視線を落とす。僕が拾うより先に、高木君が手を伸ばした。
「この石、草薙先輩のですか?」
「う、うん」
 高木君は、拾い上げた石を僕の手のひらに戻そうとする。だが、その手はそれ以上動かなかった。
「高木君?」
「これ、何の石ですか?」
「えっと、ラピスラズリ(瑠璃)っていうんだ」
「ラピスラズリ……」
 高木君は、石を食い入るように見つめる。
 彼が手にしているのは、吸い込まれそうな深い青色の石だった。藍銅鉱(らんどうこう)のような艶っぽさはないけれど、その代わり、石の中に混ざりこんだものがある。
「この石、金色の星が鏤(ちりば)められてる……」
 石を見つめていた高木君は、息を呑(の)んだ。
「それは、黄鉄鉱(おうてっこう)だね。青い部分は、主に青金石(せいきんせき)でね。硫黄(いおう)を多く含んでいる鉱物なんだよ」
「硫黄って温泉なんかにある……」
「そうそう。それ」
 僕は頷く。高木君は、信じられないといった表情でラピスラズリを見つめていた。
「石というよりも、夜空ですね……」
 言い得て妙だと思った。
 高木君の手の中には、濃い青の夜空と、そこに鏤められた星々が収まっていた。小さな黄鉄鉱の粒が、太陽の光を反射してキラキラと光る。その度に、高木君は眩(まぶ)しそうに目を細めた。
「ラピスラズリって聞いたことはあるんですけど、こんな石だったんですね」
「ラピスラズリを粉末にすると、ウルトラマリンっていう顔料になるんだってさ。とても綺麗(きれい)な青になるから、有名な絵画にも使われてるみたい」
「フェルメール作『真珠の耳飾りの少女』!」
 高木君の中でピンと来たらしい。両目を見開き、物凄(ものすご)い勢いで食いついた。
「少女が巻いている青いターバンに、ウルトラマリンが使われているんですよ! 石だという話はちょっとだけ聞きかじっていたんですけど、まさかこんなところでお目に掛かれるなんて……」
 高木君は顔を綻ばせる。
 小さなラピスラズリと、それを手にする高木君の姿があまりにもお似合いで、僕は木箱をそっと高木君の視界から遠ざけた。


プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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