よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 アラビアンナイトの物語から抜け出したような衣装を身にまとっているけれど、不思議なほど周囲によく馴染(なじ)んでいた。
 石精(いしせい)だ、と僕は直感的に悟る。
 一方、高木君は目を白黒させていた。いきなり浮世離れした人が現れたのだから、無理もない。
 だけど、心の何処(どこ)かでその正体を薄々悟っているのか、自分が手にしたラピスラズリと石精を、交互に眺めていた。
「話は聞かせて貰いました。貴方は思い出の夜空を眺めた時、どんな気持ちになりましたか?」
 石精は静かに問う。
 高木君は息を呑んだかと思うと、しどろもどろに答えた。
「満天の星が、綺麗だって……。言葉に表せないほど胸がいっぱいになるような、涙が出そうになるような、そんな気持ちになったんだ。だけど、自分の不出来な絵が、その記憶を掻き消してしまって、正確な記憶が残っていないんだ」
 もう、どうしたらいいか分からない。そんな袋小路に迷い込んだ高木君の焦燥が、ひしひしと伝わって来た。
「正確な物を描く必要はありません。貴方は、カメラではないのですから」
 石精は、そっと高木君の手を取る。
 その長い指先に触れられた瞬間、高木君はビクッと身体を震わせた。だが、恐る恐る、石精の手を握り返す。
 次の瞬間、世界が暗転した。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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