よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「ええっ……!」
 高木君は声をあげる。目を何度も瞬かせて、辺りをきょろきょろと見回した。
 硬かった地面は、砂になっていた。白い砂が何処までも続く、砂漠のど真ん中に僕達はいた。
 そして、頭上には夜空があった。
 いや、夜空というには少しばかり明るく、深い青色の空だ。そこに、無数の星々が煌(きら)めいていた。
「わぁ……」
「凄い……」
 僕はつい、溜息を漏らしてしまう。最初は挙動不審だった高木君も、いつの間にか言葉を失って見惚(みと)れていた。
 夜空では、星がキラキラ輝いている。それを見つめる高木君の瞳も、キラキラしていた。
「夜空もまた、自然が描く芸術の一つ。それを模倣するのも一つの芸術ですが、その時の気持ちを表現するのもまた、芸術なのです」
 石精は歌うような声でそう言った。
「自然の芸術……」
 高木君は、ハッとしたように繰り返す。石精は、静かに頷いた。
「この夜空、あの時の空に似てる気がする……。あの時よりも明るい気がするし、星の瞬きも強過ぎる気がするけれど」
 明らかに違うところもあるのに、どうしてこんなに似ていると思うのだろう。高木君はそう言いながら、首を傾(かし)げていた。
 そんな高木君に、ラピスラズリの石精は微笑(ほほえ)んだ。
「それは、貴方の気持ちが同じだからかもしれませんね」
「そっか……。あの時の夜空を見た時の気持ちは、こんな気持ちだったんだ。気持ちが高ぶって、筆を取りたくなるっていう……!」
 高木君は、そっと自分の胸に手を当てる。
「いつの間にか、感動した時の気持ちも曖昧になっていたみたいだ。夜空を再現出来ないことに焦って、美しかった思い出が塗り潰されていたのかもしれない」
「思い出と理想と、幻想。それらを絵の具と共に筆に乗せて、想いのままに描けば良いのです。そうすると、ありのままの自分が出て来るはずです。貴方の内側から溢(あふ)れるものを存分に表現なさい」
 石精は、高木君の頭をふわりと撫でる。高木君は、その手のひらの感触に身を任せるように、顔を綻ばせた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

Back number