よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第八話 瑠璃の空〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「想いのままに、か。進学の心配もあるし、少し難しいけど、やってみる」
「万が一、機会が失われたとしても、それが永遠に続くわけではありません。時が経ち、貴方が成人すれば、道を選び直すことも出来るでしょう。その間に努力を積み重ねれば、道も切り開き易くなります」
「そっか……」
 ラピスラズリの石精の言葉に、高木君は憑(つ)き物が落ちたような顔になる。
 確かに、若いうちから専門学校に通い、美術について学ぶのは大事なことだ。しかし、成人してからでも専門学校で学ぶ機会はあるし、独学でその道に進むことも出来るだろう。
「もう少し、肩の力を抜けば良かったのかな。他の部員の高価な絵の具ばかりに目が行って、本当に大事なことが見えてなかったのかもしれない」
「まあ、他人が気になるのは仕方がないよね……」
 僕は、高木君に同意した。状況が状況なだけに、焦ってしまうのも当たり前のことだった。
 だけど、他人がどうかというよりも、自分をどう表現するのか。それが、今の高木君に必要なことだったのだろう。
 僕はそう思いながら、改めて美しい夜空を見上げる。シェラザードの語りとともに、魔法のじゅうたんが飛んで来たり、ランプの精が現れたりしそうだと思った。
 視界いっぱいに広がった空の、鮮やかな深い青には見覚えがある。そして、眩(まばゆ)いくらいにぎらついた真鍮(しんちゅう)色の星々にも。
「これって、もしかして――」
 僕は思わず声をあげる。高木君もそれに気付いたのか、「あっ」と目を丸くした。
「夜空じゃ……ない?」
 宇宙の果てまで続きそうなくらいに奥行きがある空だったけれど、その色はラピスラズリによく似たウルトラマリン(群青色)だった。そして、鏤められた星々の真鍮色の輝きは、黄鉄鉱とそっくりだった。
 僕と高木君は顔を見合わせる。
 僕達が夜空だと思っていたのは、ラピスラズリそのものだったのか。
 そう悟った瞬間、いつの間にか砂の大地も消えていて、僕達はラピスラズリの夜空の中に放り出されていたのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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