よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 いつものように土蔵の整理をしていると、祖父が遺(のこ)したと思われるノートが姿を現した。
「これも、採集記録かな」
 裸電球の明かりの下で、僕はノートを見つめる。採集記録ならば、表紙に記録を開始した時期と終了した時期を記してあるのだけど、これには何も書いていなかった。
「なんか、違う雰囲気……」
「何の記録だろう。僕も、初めて見るね」
 雫(しずく)も不思議そうに首を傾(かし)げながら、僕が手にしたノートを見つめる。
「雫も知らないノートなの? 採集記録じゃないなら、何だろう」
 祖父は趣味が多かった。先日は絵画も見つかったことだし、何に手を出していてもおかしくない。
「一緒に見てみようか」と雫は誘う。
「う、うん」と僕は頷(うなず)いた。
 ノートは一冊だけではない。何冊か、木箱に厳重にしまわれていた。
 本当に見てしまっていいのだろうか。でも、中身を確認しなくては遺品の整理が出来ないし、何より、興味がある。
 きっと、雫も。
 僕は、透き通るような目をキラキラさせている雫を見つめた。彼の表情には、それと分かるような好奇心が宿っていた。
「それじゃあ、失礼して……」
 緊張していたのか、ノートを開く手が汗で濡れていた。
 一頁目を見てみると、日付と文章が記されている。祖父の達筆な字がびっしりと書いてあり、判読するのに時間が掛かりそうだ。
「あれ? やっぱり、採集記録……?」
「いいや。どうやら違うようだね」
 一足先に内容を目で追っていた雫が、静かに首を横に振った。
「それじゃあ、一体……」
「達喜(たつき)の日記だ。日常を記したものだね」
「お祖父(じい)ちゃんの……日記……」
 それは、とても新鮮なものに思えた。今までは、鉱物の話題を通じてしか、祖父を知ることは出来なかったから。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

Back number