よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 本当だろうか。
 雫はあまりにもアッサリしていて、ふたりのことを既に割り切ってしまっているように見えた。だけど、雫が口から出まかせを言うような性格ではないことは知っているので、根本的なところが違うのだと悟った。
 石と人間。雫は僕達と同じような姿をしているけれど、彼の本体は、傍らの机の上で輝くハート形の水晶だ。
「同じじゃないよ」
 僕の口から、そんな言葉が漏れてしまった。
「僕達は、違うところばかりだ。石精(いしせい)としての雫の姿は、僕と同じくらいの年齢の男の子だけど、実際は凄く昔に結晶化した日本式双晶(そうしょう)だし」
 共通点と言えば、祖父やメノウの存在を知っていることだ。そして、鉱物のことを気に掛けているということくらいか。
「僕と雫は、根本的なところが違うんだ。僕は、雫のようにはなれない」
「……僕のようになれとは言っていないさ。泣いたって、いいんだよ」
 雫は、少し困ったように微笑んだ。
「僕は、雫のようになりたいのに」
 その一言に、雫は更に苦笑した。
「僕は、樹が思っているほど悟ってはいないよ」
 雫の言葉は、意外なものだった。思わず、「えっ?」と目を丸くしてしまった。
「それに、姿かたちや組成は違うけれど、僕達はそこまで異なるわけではないんだ」
「でも、無機物と有機物だし……」
 つまりは、モノと生き物だ。
 雫は、モノにしてはあまりにも表情が豊かだったし繊細で、モノ扱いすることは憚(はばか)られたけれど。
「その隔たりも、そこまで大きなものではないんだよ、樹」
「そう……なのかな?」
「万物は分解され、また別のものになる。それに、樹の骨も水酸燐灰石(すいさんりんかいせき)で出来ているわけだしね。生き物の身体(からだ)の中にも鉱物は存在しているし、生き物もまた鉱物になるんだよ」
「生き物もまた、鉱物に……」
「化石だって、生き物の遺骸が石になったものだろう?」
「確かに……」と僕は頷いた。
「あれは、骨の成分が長い年月をかけて置き換わることで、石になっているのさ」

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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