よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「でも、骨は鉱物だから……」
「腐敗した肉だって、鉱物になる時があるんだよ。そのためには、微生物の手助けが必要だけれど。黄鉄鉱の塊をくっつけたベレムナイトの化石がそれかな。それに、鉱物を生み出す生き物もいるようだからね」
 深海には、金属鉱物の糞(ふん)をする生き物が存在しているのだという。主に黄鉄鉱を含んでいるらしいけれど、あの真鍮色(しんちゅういろ)の鉱物の糞なんて想像が出来ない。
「金属の糞なんて、すごいね……」
「でも、君達の血液には、鉄分が含まれているじゃないか。君達だって、鉄を取り入れているんだよ」
「僕達の身体も、無機物で構成されている……」
「そうさ。だから、それほど違いはないんだ」
 雫が言っていることは、理に適(かな)っている。確かに、そうなんだとも思う。
 だけど、それが僕の求めている答えなのか。
 答えをくれとは言わない。間違っているとも言わない。だけど、雫の説得を受け入れる気にはなれなかった。
「少し、考えたいな」
「……じっくり考えると良いさ。ただし、考え過ぎて疲れてしまわないようにね」
 雫の態度は、やはり年長者のようなそれであった。包み込むような安心感はあったけれど、それと同時に、そこには寂しさもあった。
 どうしても、大きな隔たりを感じてしまう。
 それは、雫が僕よりも遥かに長い年月を生きてきたせいか、それとも、人間と鉱物の違いか、それはよく分からない。
 でも、祖父の日記を見た時に襲って来た喪失感を、共有するのが難しいように思えた。
 どっと孤独感が押し寄せる。
 土蔵の中で祖父の遺品を整理しながら、数々の感動を雫と共有してきた。父が知らない祖父の話も聞けたし、祖父のコレクションから祖父の軌跡を辿(たど)ることも出来た。
 雫とは様々なことを共有して来たつもりだった。でも、この寂しい気持ちは共有出来ないのだろうか。
 いつも余裕があって、僕を包み込んでくれる雫は、遥か天上の存在のように思えた。
「達喜の日記は、樹が持って行くといい」
 少し沈黙した後、雫は僕にやんわりと言った。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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