よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「どうしたんだい。僕の物言いが、何か気に障ったかな?」
 雫は首を傾げ、顔を覗(のぞ)き込んで来た。僕は、つい目をそらしてしまった。
「その、雫もそうなのかなと思って」
「そう、とは?」
「関わる人が多い方が、いいのかなと思って」
 雫は、僕が連れていかない限りは、土蔵の中にいる。その前は、祖父と一緒にいた。
 だけど、祖父は石精と積極的な関わりがなかったようだし、祖父と共(とも)に何処かへ行ったことはないのだろう。
 雫も寂しさや、物足りなさを感じているのかもしれない。だけど、雫は「どうだろうね」と曖昧な答えを寄越した。
「所有者が変わり過ぎても、大変そうだ」
「あっ、石とコレクターという関係じゃなくて、もっと別な……。友人とか、恋人とか、人間以外でも、石精相手でも良いんだけどさ。他者と関われば関わるほど、生活が潤うのかなと思って」
「考えたことはなかったね」
 雫は、さらりと言った。
「石精同士って、友人や恋人関係って、無いの?」
「人間相手にそういう関係を築いている者もいるかもしれないけれど、石精同士では稀(まれ)だろうね。僕達は概念の存在で、人間に知覚されてこそ存在出来る――つまり、人間ありきの存在だからさ」
「成程……」
「僕は、同族とのコミュニケーションも嫌いではないけれど、こうして土蔵で達喜の思い出に浸る時間も貴重だと思っているよ」
 雫は、何ということもないように言った。でも、その平然とした様子が本心なのだろうか。
 石精の本心は計り難い。間に、大きな隔たりを感じるから。
 僕は、掛けるべき言葉を失い、そのまま黙ってしまったのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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