よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 東京国際ミネラルフェアの当日は、快晴だった。
 会場は新宿だが、新宿駅からだと歩いてメトロのひと区間分の距離はある。新宿のオフィス街は、高層ビルばかりで見晴らしが悪く、いつの間にか目標物を見失っていることがあるからと、律さんは駅ナカのお店の前を集合場所にした。
「あっ、樹君だ!」
 僕が改札口から出ると、律さんは手を大きく振りながら、僕に駆け寄ってくれた。一歩遅れて、楠田さんもやって来た。
「お久しぶり。って言っても、そんなに経(た)っていないかな?」
「一ヶ月くらいですかね。お元気そうで、何よりです……」
 楠田さんの爽やかな笑顔を前に、僕はぺこりと頭を下げる。やけに照れくさくて、頬の辺りがぽかぽかしていた。
「おっ、樹君は相変わらず礼儀正しいなぁ」
 律さんは、うんうんと頷く。
「まあ、最年少ですし……」
「いやいや、年齢なんて関係ないって。石が好きな仲間同士だったら、ご老人から赤ちゃんまでウェルカムだよ!」
 両手を広げる律さんに、つい吹き出してしまった。
「えっ、ここで笑われるなんて」
「す、すいません。雫も同じようなことを言ってたなと思って。趣味の仲間に年齢は関係ないって」
「ああ、なるほどね。流石(さすが)は、長寿の石精。器が大きいなぁ」
 律さんの感心した様子に、ようやく気付いた。
 そもそも、雫自体が僕よりも遥かに年上だ。それでも、対等な友人として接してくれているのだから、有り難い。
「誰の話?」
 楠田さんは首を傾げる。僕と律さんは、「あっ」と思わず声をあげた。
 そうだった。楠田さんは雫のことを知らないし、そもそも、石精と話せない人だった。石精のことは説明したものの、信じてくれたのか、大人の対応をしてくれたのかが分からない。
「えっと、樹君のうちにいる石精の名前……」
 律さんは、一切誤魔化さず素直に答えてしまう。
「石精って、糸魚川に行った時に言ってた、石に宿る精霊ってやつ?」
「そう。樹君の家には、その石精がいるんだけど……」
「へぇ、そうなんだ……」
 楠田さんは目を丸くする。半信半疑の表情だ。自分の中で、真偽のほどを考察しているのだろう。
「会ってみたいところだけど、縁が無いと会えないんだっけ……?」
「ええ、まあ……」
 僕の頷きは、曖昧なものになってしまった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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