よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 信じろというのが難しい話だ。僕だって、石と話せるなんて、夢を見ているのではないかと疑うこともある。
「私も――石精と縁が繋(つな)がっていれば良かったんだけど」
 そう言った楠田さんは、困ったように笑っていた。彼女の表情は、とても残念そうだった。信じてくれたらしい。
 それを悟った僕と律さんは、思わず嬉(うれ)しくなって顔を見合わせた。
「ねえ、樹君。その、雫……君かな? 石精の話、聞いてもいい?」
「勿論(もちろん)!」
 僕は、道すがら、楠田さんに雫のことを話した。
 透き通るような銀色の髪をした、綺麗(きれい)な男の子の姿をしているということ。そして、事あるごとに僕を励ましてくれたり、鉱物の蘊蓄(うんちく)を披露してくれたりするということを。楠田さんは、笑い飛ばすこともなく、僕の話を真剣に聞いてくれた。
「そっか。樹君は日本式双晶の祝福を受けているんだね」
「祝福……なんでしょうかね。そう言われると照れくさいというか……」
「凄いことだと思うよ。しかも、それがお祖父さんに関することから繋がっているって知ったら、お祖父さんも喜ぶと思う」
 その言葉に、僕と律さんは顔を見合わせた。
「お祖父ちゃんが……」
「達喜さんが喜ぶ……か」
 今、石仲間であった律さんと僕が、祖父の遺品整理という縁によって雫と出会えたと知ったら、祖父はどんな顔をするだろうか。
 性格的に、素直に喜んでくれることはないだろうけど、「悪くないんじゃないか」くらいは言ってくれそうだ。
 そして、雫との絆(きずな)を大切にすることが、祖父との思い出を大切にすることに繋がるのだろうか。
「その雫君に、宜(よろ)しく伝えておいてね。見えるようになったら、真っ先に貴方に会いに行くよって」
「はは、分かりました」
 楠田さんの明るい笑みに、つい、つられてしまう。
「そう言えば、糸魚川で拾った翡翠(ひすい)はどうなったんだい?」
 律さんは、ふと思い出したように問う。僕は、鞄(かばん)につけた翡翠の根付を二人に見せた。
「ここにいます」

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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