よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「わぁ、可愛いね」
 僕を導いたラベンダー色の翡翠は、勾玉(まがたま)になっていた。紫色の根付紐(ひも)にぶら下がりながら、誇らしげに揺れている。
「あれからも、樹君に声を掛けて来るのかい? 石精が二人ってどんな感じなんだろうと思ったんだけど」
 律さんは、僕と翡翠の勾玉を交互に見やる。僕は、首を横に振った。
「いいえ。あれから声は聞こえませんし、石精の姿も見えないんです。何となく、近くにいて見守られている感じはするんですけど」
「そっか。雫君と話しているところとか、見てみたいものだと思ったんだけどなぁ」
「それは、僕も思いました」
 そしたら、雫の新たな一面も見れたかもしれないのに。
「それにしても、石精はずっと見えていたり、声を聞けたりするわけじゃないんだね」
「その石精にとっては、樹君を自分の元に導いたことで満足してしまったのかもしれないね」
 楠田さんは、今までの僕達の話を聞き、そう結論付けた。
「なんか、それだと成仏したって感じだね。まあ、気配はあるっていうから、消えたわけじゃないんだろうけど」
 律さんはそう言って、目を凝らして翡翠の根付を見つめる。だけど、石精の姿は見えなかったようで、目をしばしばさせていた。
「成仏……か」
 嫌な響きだと思った。
「雫も、いつかは消えてしまうんでしょうかね」
「えっ、そうなのかな」
 律さんも事の不吉さに気付いたようで、道端であたふたし始めた。
 翡翠の石精が満足して成仏するのであれば、日本式双晶の石精である雫もまた、成仏して消えてしまう可能性がある。
「やろうと思っていることをやったら、消えてしまうとか……」
 律さんは、声のトーンを下げる。それでは本当に幽霊のようだと思ったけれど、律さんの説は妙に説得力があった。
「雫のやりたいことって、何でしょう……?」
「達喜さんの遺品整理かな……」と律さんが言った。
「それか、樹君を導きたいのかもしれないね」
 楠田さんも、意見をくれた。
「僕を、導く……?」

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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