よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「だって、お祖父さんとワンちゃんが亡くなった時に現れて、それ以降、樹君にアドバイスをしているんでしょう? もしかしたら、お祖父さん達の代わりに、樹君のそばにいて、成長を見守りたいんじゃないかと思って」
 僕の成長を見守る。その言葉は、しっくり来ていた。
 雫はいつも、僕を包み込むように見守ってくれる。僕が迷っていたら、道を示してくれる。それはまるで、僕の成長を促しているかのようだった。
「それじゃあ、雫は……」
「樹君が大人になるまで、そばにいてくれるのかもしれないね」
 楠田さんは、石に見守られながら成長することへの羨ましさや、祝福を湛えたような顔で微笑んだ。だけど僕は、呼吸が止まりそうなくらい衝撃を受けていた。
 大人になるまではそばにいる。だけど、大人になったら?
 翡翠の石精のように、姿を現さなくなってしまうのだろうか。
「樹君と同じくらいの年齢の男の子の姿をしているっていうのも、気になるね。石精って、みんなが少年ってわけじゃないんだろう?」
 律さんの問いかけに、僕はぎこちなく頷く。
 雫くらいの外見の石精もいれば、成人しているのではないかと思うほどの石精もいた。性格的なものなのか、自在に変えることが出来るのかは分からないが、少なくとも、中学生くらいの少年である必要性はないということだ。
「思春期の樹君を、導くために姿を現したのかもね」
 楠田さんは、一人納得する。その言葉は、聞かなかったことにしたかった。
 それじゃあ、もし、僕が成長してしまったら、雫は消えてしまうということだろうか。存在しているにしても、お喋(しゃべ)りをし合ったり笑い合ったりすることは出来ないのだろうか。
「雫は、いなくなってしまうんでしょうか……」
 そう言った僕の声は、思った以上に沈んでいた。楠田さんは、しまったと言わんばかりに口に手を当てた。
「ご、ごめんなさい。私の勝手な推測だから、気にしないで」
「いえ。納得することばかりだったので。寧(むし)ろ、何の前触れもなくいなくなってしまったら、それこそ、ショックでしょうし」
 大丈夫だと言わんばかりに、楠田さんへ微笑みを返す。しかしその笑みは、ひどく歪(ゆが)んでしまった。
 雫は、消えてしまうのだろうか。だから、寂しそうにしていたのだろうか。雫には雫なりの、僕には分からない感情があったのだろうか。
 いずれにせよ、別れたくないと思った。
 雫がイスズさんの元へ行った時以上の喪失感を味わうなんて、想像しただけでも耐えられなかった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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