よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「そう。生き物の骨は石に――化石になるし」
「ですよね。肉も鉱物になるって聞きましたけど」
 僕がそう言うと、律さんと楠田さんは顔を見合わせた。
「あるある。黄鉄鉱が固まったやつ」
「ベレムナイトだったっけ。殻の先端――軟体部があったと思しき場所に、黄鉄鉱の塊がくっついてるの」
 二人とも、心当たりがあったようだ。どうやら、有名な標本らしい。
「樹君と雫君のことは気になるからね。今日は一先(ひとま)ず、二人の隔たりを取り除くところから始めようか!」
 律さんは、僕の肩をガシッと掴(つか)む。
「えっ、それって、どういう……」
「鉱物化した生き物の痕跡を探すんだよ。幸い、ミネラルフェアは鉱物だけじゃなくて化石も取り扱ってるしね」
 律さんは、すっかりやる気に満ちていた。
「そうそう。海外の業者さんも来るし、国内だとあまり流通していない化石もありそうだよね」
 楠田さんもまた、楽しそうにしている。雫のことで頭がいっぱいだったけれど、少しずつ、気分がほぐれていくのを感じた。
「それじゃあ、今日のテーマは鉱物化した生き物。見かけたらブースの場所を控えて、後で情報交換をすること!」
 律さんが高らかに宣言すると、楠田さんは「りょーかい!」と敬礼した。僕も、「わ、分かりました」と頷く。
「因(ちな)みに、気に入ったものは購入してもいいんだけど、モノによってはまあ、びっくりするようなお値段だから気を付けて」
 律さんの忠告に、僕は息を呑(の)んだ。
「そ、そういうものなんですね」
「珍しいっていうのもあるけれど、特に、オパール化していると人気もあるからね」
 オパールは、主に虹色に輝く石だ。虹色の原因となる遊色(ゆうしょく)がないものもあるけれど、総じて人気だし、二酸化珪素(にさんかけいそ)である雫の仲間でもあった。
「オパール化なんて、綺麗でしょうね……」
「うん。似たようなものだと、遊色効果を持つ結晶に置き換わったアンモナイト――アンモライトって呼ばれているんだけど、その大きいやつは目玉がぽろぽろと零(こぼ)れ落ちるくらいのお値段だから」
「目がとび出るどころじゃないんですか……」
 僕は思わず息を呑んだ。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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