よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「でも、めちゃくちゃ綺麗なんだよ!」
 律さんは、それこそ目が零れんばかりに見開いた。
「虹色に輝くアンモナイトなんて、ヤバくない!? 宝石として重宝されるくらいなんだけど、僕は目にした瞬間、拝んじゃったよ!」
 律さんは興奮気味にそう言う。僕はとても気になったので、会場内を探してみようと思った。
「あと、瑪瑙化した貝も人気があるかな」と楠田さんは候補を挙げる。
「あー、定番!」と律さんは大きく頷いた。
「ん?」
「どうしたの、樹君」
「二酸化珪素って、生き物に近いんですかね。生き物が、オパールや瑪瑙になるなんて」
「うーん。地中に珪素が多く含まれているっていうのもあるかもしれないね。僕達がこうやって歩いている地面にも、沢山あるだろうし」
 律さんはアスファルトを踏み締める。その下には、雫の身体を構成している珪素が沢山眠っているのか。そして更に地中深くには、化石が眠っているのだろうか。
 そう思うと、僕もワクワクして来た。
「あっ、ちょっと元気が出て来たかな」
 律さんは僕の顔を覗き込み、悪戯(いたずら)っぽくそう言った。
「えっ、どうしてです?」
「目に光が戻ったからね。さっきまでは、電池が切れたみたいな表情だったけど」
 一体、どんな顔をしていたのか。気になったけれど、ひどい顔をしていたのならば知らない方がいいか。
「ご心配、おかけしました」
「いやいや。落ち込んだり辛(つら)くなったりした時は、さっきみたいに気軽に教えてよ。人生の先輩として、何かアドバイス出来ることがあるだろうし」
「でも、趣味の世界に年齢は関係ないって……」
「年齢は関係ないけど、年長者として助けることは出来るしね。力になれることは、出来るだけしたいからさ」
 律さんの意見には、楠田さんも「そうそう」と頷いていた。二人の気遣いが、とても有り難いと感じたのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

Back number