よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

***


 お喋(しゃべ)りをしながら歩いているうちに、会場に到着した。
 都庁のすぐ近くにあるオフィス街の一角に聳(そび)え立つ、大きなビルの一階と二階が会場だ。
「おっ、丁度いいタイミングだね」
 律(りつ)さんは、会場の出入り口を見やる。
 すると、列を成した大勢の人がぞろぞろと入って行くところだった。携帯端末の時計を確認すると、開場直後だった。
「みんな、いつも凄(すご)く早い時間から来てるんだよね。開場前は長蛇の列にもなるしさ。幸い、捌(さば)けるのも早いし、みんなが入り終わった頃が狙い目かなぁ」
「まあ、昨日はそんな早い時間から来てる人の中に、彼もいたんだけどね」
 楠田(くすだ)さんは、律さんのことを小突いてみせた。
「ははは……。だって、贔屓(ひいき)にしている業者さんが、新産鉱物を持って来るっていうから……。SNSでも沢山拡散されてたし、あっという間になくなっちゃいそうで」
「あるあるだよね。ともかく、無事に手に入れられたようで良かった」
「あ、そうか。初日は昨日でしたっけ」
 僕の言葉に、「そうそう」と二人は頷(うなず)く。
 昨日は、金曜日で平日だ。二人とも、有休をとって朝一番でやって来たのだという。
「気合の入り方が違うっていうか、凄いですね……」
「樹(いつき)君は学校を休むわけにいかないしなぁ」と律さんはつぶやいた。
「自由に休める権利を得るまでは我慢だね。でも、ちゃんと有休をとれる会社を選ばないと駄目だよ。それか、金曜日が休みの会社とか」
 楠田さんは、にんまりと笑みを浮かべた。
「そ、そうですね」
 改めて、二人の世界はミネラルイベントを中心に回っているのだと実感する。
 入場券を買おうとしたけれど、律さんが招待券をくれた。楠田さんもお揃(そろ)いの招待券を持っていた。どうやら、出店する馴染(なじ)みのお店から貰(もら)ったらしい。
 会場に入った瞬間、密度の濃い熱気に圧倒された。
 一階と二階は吹き抜けになっており、天井は高い。その下で、色とりどりの石を陳列したブースがずらりと並んでいた。
 原石もあれば、裸石(ルース)もあるし、化石もある。池袋のミネラルショーを思い出すものの雰囲気が違うように感じた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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