よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「なんかこう、こっちは重みを感じますね」
 僕は、きょろきょろと入り口付近のブースを見回す。
「歴史があるショーだからね。海外の業者さんも、池袋に来ていた人もいれば、ここでしか見られない人もいるんだ」
「確かに。見たことがある人もいるような、会ったことがない人もいるような……」
 何せ、数多のブースを見渡すので精一杯だ。逐一、会ったか否かを確認する余裕はない。
「一緒に回る?」
 楠田さんは、少し心配そうに問う。
「そうして頂けると有り難いです……」と頭を下げた。ちょっと情けないとは思ったけれど、自分ひとりでは目移りしてしまうから。
「それじゃあ、僕は二階から見て来るよ。一通り見てから、ランチも兼ねて情報交換かな」
 律さんは集合場所と時間を指定して、二階へ通じる階段をひょいひょいと上がって行ってしまった。僕は、会場の入り口から死角になっているせいで、階段が何処(どこ)にあるか分からなかったけれど、律さんは慣れたものだった。
「それにしても、鉱物化した生物の化石かぁ。黄鉄鉱(おうてっこう)化したアンモナイトやベレムナイトは、ロシアの業者さんが持ってるかもしれないね。珪化木(けいかぼく)も、持ってる業者さんがいたような……」
 楠田さんは、記憶の糸を手繰り寄せる。
「本当に、お手数をおかけします」と僕は頭を下げた。
「ううん。いつも、好き勝手に選んじゃってるし、テーマに沿ったものを見つけるのも楽しいと思ってね。丁度良かったよ」
「それは、良かったです」
 僕は胸を撫(な)で下ろす。
「それにしても、人間と石は違うように見えるけれど、実は共通することがあるっていうのはハッとしたね」
「楠田さんも、ですか」
「自分の骨が水酸燐灰石(すいさんりんかいせき)だっていうのは覚えていたけど、食べ物にだって含まれているし、身体(からだ)にだって循環してるんだよね」
「そうですね……」
 僕は、自分のほっそりとした腕を見つめる。この腕の中に流れる血液も、食べ物に含まれているミネラルを身体中に運んでいるのだろう。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

Back number