よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「これも人工水晶なんだよ。ここにあるのはロシア製だけど」
「えっ、これが?」
 どれも水晶の欠片(かけら)の角を研磨したようなもので、ガラスと見分けがつかない。だけど、持ってみると確かに、ガラスとは違った感触だった。
「この状態だと、全然分からないですね……」
「同定出来る要素がほとんど無いしね。成分は、ちゃんと水晶と同じなはずなんだけど」
 雫に見せたら、どんな顔をするだろう。
 でも、ちょっと複雑な心境になるだろうか。もし、人間以外の生命体が作った人間を見せられたら、どう反応したらいいか僕も困ってしまうし。
「あった!」
 楠田さんは、幾つか並べられた銀細工のようなものを指し示す。
「これは……アンモナイト?」
 アンモナイトの断面だった。しかし、金属で作られたかのように光沢があり、見た目だけでもずっしりしていることが分かった。
「そう。黄鉄鉱化したアンモナイト」
「あっ、これが……!」
 銀色だと思ったけれど、よく見れば、あの真鍮(しんちゅう)の輝きが感じられるような気がした。
「すごいですね。銀細工みたいだ……」
「見事だよねぇ。他の産地の黄鉄鉱化したアンモナイトも、また違った味わいがあって素敵だよ。ドイツで産出するものだと、いかにも黄鉄鉱って感じの色合いのアンモナイトだしね」
「黄鉄鉱化したアンモナイトだけでも、いっぱいあるんですね」
「黄鉄鉱ってだけでもバリエーションが豊富でしょ?」
 楠田さんに言われ、成程と思った。黄鉄鉱と一言で言っても、立方体や八面体、五角十二面体などもある。
「そうなると、鉱物化した生物の化石も、様々なパターンがあるんでしょうね。それこそ、さっき挙げただけじゃなくて……」
「そうだね。私達と石の境界は、実のところ曖昧なんだろうね」
 ブースの主(あるじ)である恰幅(かっぷく)のいいロシア人のおじさんに会釈をし、楠田さんは別のブースへと移る。
「それどころか、この世界のもの全ての境界が曖昧なのかもしれないね。みんなが土に還(かえ)れば、分解されて循環し、何かになる。でも、同じようなものになるとは限らない。人間だったものが、植物になって、草食動物の身体の一部になるかもしれないし、こうやって鉱物になるかもしれない」
「僕も……そうなんですかね」
「そうだね。樹君は、どんな鉱物になりたい?」
「えっ」
 僕は思わず、耳を疑った。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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