よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 鉱物になるということは、それはつまり――。
「土に還った後のこと、漠然と考えると怖いけれど、鉱物になれるかもしれないと思うと楽しみも生まれるよね」
 楠田さんは、明るく微笑(ほほえ)んだ。その発想に僕はビックリしたけれど、楠田さんの表情は、屈託のない顔つきにも見えた。
「僕は……」
 迷う素振りをしながらも、楠田さんのことを想う。
 鉱物化した生物の痕跡を見て、ふとそんなことを考えたのだろうか。それとも、そう考えざるを得ない状況になったことがあるのだろうか。
 いずれにしても、その発想は僕にとって新鮮だった。
「水晶には……なれるんでしょうかね」
「巡り巡って、なることは出来るんじゃないかな。同じ石英(せきえい)グループの、玉髄(ぎょくずい)や瑪瑙(めのう)だったら、生物の遺体が変化することはあるし」
「それじゃあ、僕は瑪瑙がいいです」
 僕は、迷うことはなかった。
「そっか。瑪瑙になると、生前よりも頑丈になれるしね。いいと思う」
「えっ、いいと思うところは、そこ?」
 目を丸くする僕に、「冗談だよ」と楠田さんは微笑む。
「いや、あながち冗談じゃないけど……。でも、瑪瑙化した貝は綺麗(きれい)だしね。瑪瑙が描く模様が好きだから、私もいいなぁって思っちゃうな」
「楠田さん、ピクチャーストーン好きですしね」
「覚えていてくれて、ありがとう」
 楠田さんは、心底嬉(うれ)しそうに微笑んだ。僕はまた気恥ずかしくなって、つい、視線を明後日(あさって)の方へと向けてしまった。
「樹君は、雫君が水晶だから、石英グループを選んだのかな?」
 楠田さんの言葉に、ドキッとしてしまった。
「そ、それは……」
「それは?」
 楠田さんは、続きを促す。
 図星だった。自覚は無かったけれど、言われてから初めて気が付いた。
「そうなることで、少しでも雫に近づけると思ったので。そうすれば雫のことも、もっと理解出来るかもしれませんし」
 そうなる頃にはとっくに死んでいるんですけど、と苦笑しながら付け加えた。
「友達に少しでも近づきたい。その心がけは、素敵だと思う。雫君に言ってみたら、喜ぶんじゃない?」
「そう、でしょうかね」
「私は雫君のことを知らないから、推測でしかないけどね。でも、私だったらその気持ちが嬉しい」
「……それを聞けただけでも、良かったです」
 雫は、本当に喜んでくれるだろうか。もし、そうでなくても、僕が雫に歩み寄りたいと思っていたことを知ってくれればいいと思う。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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