よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 帰宅したのは、夕方だった。
 律さんも、鉱物化した生物の化石を幾つか見つけてくれていて、ランチが終わった後、様々なブースを巡った。
 二枚貝から、美しいアップルグリーンのアナパイトという鉱物が生えているものや、犬牙状で飴(あめ)色のカルサイトが生えているものなど、色鮮やかな鉱物も目にすることが出来た。
 勿論(もちろん)、アンモライトも。
 角度を変えるごとに、虹色の輝きの表情を変化させるその姿に、僕も思わず手を合わせて拝んでしまった。
「僕達も、あんな風に綺麗になれるのかな……」
 それは、条件が限られていて、確率も低いことなのだろうけど、ゼロではないはずだ。
 キラキラした鉱物達は、全く別次元の存在のように考えていた。でも、もっと身近な存在なのかもしれない。
「雫、ただいま……」
 夕食をとってから、土蔵へ向かった。
 外はすっかり暗くなっていて、土蔵の中は闇ばかりが広がっている。手探りで照明のスイッチを探そうとするけれど、上手(うま)く探り当てることが出来なかった。
「雫?」
 雫の返事はない。いつもならば、僕を迎えてくれるはずなのに。
 まさか、本体の日本式双晶がなくなってしまったのだろうか。
 一瞬だけ血の気が引くものの、土蔵には鍵がかかっていたし、僕以外で出入りするのは父くらいだ。その父は、ちゃんと事情を知っている。
 入り口から中を探っているうちに、闇に目が慣れて来た。外からこぼれる光に照らされて、日本式双晶のきらめきが見える。
 安堵(あんど)すると同時に、触れたくなって歩み寄っていた。その感触を確かめなくては、消えてしまいそうだったから。
 その瞬間、重々しい音を立てて土蔵の扉が閉ざされる。
 ハッとして振り向くものの、そこには闇が広がっているだけだった。
「雫……!」
「僕はここだよ、樹」
 日本式双晶に触れようとして伸ばした手は、雫の手に触れていた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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