よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 この世界の生き物は、いなくなってしまったのだろうか。世界が終焉(しゅうえん)に近づき、昼と夜の境界も崩れ去ってしまったのだろうか。
 海の色は、黄昏(たそがれ)の色だ。空気はとても澄んでいて、海独特の生き物のにおいはしない。
 不安と孤独と、ほんのわずかな安らぎを感じながら、雫の言葉を待った。
「……そうだね」
 長い沈黙を経て、雫は答えた。
「君達と僕とは決定的に違うものがある。そう感じる時が度々あってね」
「でも、僕達の身体は鉱物で構成されているし、鉱物だって僕達の身体を構成しているじゃないか」
 僕は、雫に言われたことをそのまま返した。
「意識の問題なんだよ、樹。僕がいくら歩み寄っても、なかなか理解はされない。頭で分かっていても、心で納得することは難しい」
「その、ごめん」
 僕は、雫に今までの態度を謝罪する。だけど、雫は首を横に振った。
「樹のことじゃない。達喜のことさ」
「お祖父ちゃんの?」
「達喜の日記に、僕は記されていなかった」
「あっ……」
 そうだった。お祖父ちゃんの日記に、僕やメノウのことは書いてあった。でも、雫のことは一切触れられていなかったということを思い出す。
「僕は、家族のつもりだったのだけど」
 雫は、寂しそうに微笑む。
「僕もまた、いつかは、別の何かになってしまうかもしれないし、この世界のように曖昧な存在になるかもしれない。それは、刻一刻と近づいている」
 樹よりもスピードは緩やかだけどね、と雫は付け足した。
「それでも、寂しいし怖いんだ。出来ることならば、そうなる日が一日でも遅くなって欲しい」
「雫……」
「君達よりもずっと長く存在出来る僕が言うと、あまり説得力がないかもしれないけれど」
「そんなことない!」
 僕は、思わず声をあげた。思いのほか大きな声になってしまい、雫と一緒に目を丸くしてしまった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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