よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「その、そんなことないと思う。僕も最初は、雫は寂しさなんて感じないと思っていたけれど……」
「樹……」
「でも、僕も雫も、変わらないんだ。終わりは必ず訪れるし、土になったり雨になったりして世界を巡らないといけない。今、生き物として存在している僕だって、鉱物として存在している雫だって、みんな同じだ……。今日、沢山の石に触れて、そう思ったんだ」
 石になってしまった生き物の痕跡。それは、石と呼ぶにはあまりにも生々しく、生物と呼ぶにはあまりにも冷たかった。
「僕達と雫達に隔たりはない。あるとしたら、僕が勝手に感じているだけだ」
 雫の手を、そっと握り締める。
 雫は驚いたような顔をしていたけれど、僕の手を、しっかりと握り返した。
「そうだね。生物も無生物も、等しくこの地球の申し子だ。それに気付いて貰えて、嬉しいよ」
 雫は微笑む。
 いつもの悟ったような笑顔ではない。何処か無邪気でいて、何処かあどけない、初めて見る笑みだった。
 これが、雫の本来の表情なのかもしれない。
「いつか僕も、雫のようになれたらいいな」
 僕もまた、微笑み返した。瑪瑙化した巻貝に、思いを馳(は)せながら。
「樹の骨の中で、貝のように空洞がある場所なら、僕の成分も付着出来るかもしれない。そしたら、樹の中で少しずつ成長出来るね」
 雫は、そっと僕の頭に触れる。撫でるような仕草が、心地よかった。頭蓋骨ならば、貝のようにミネラルの結晶を宿すことは出来るだろうか。
 自分が瑪瑙化する姿を夢見ながら、僕は雫に身を任せるようにして、そっと双眸(そうぼう)を閉じたのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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