よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第九話 仮晶の夢〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「樹」
 心地よい声が聞こえる。重い瞼(まぶた)を開くと、そこには、雫がいた。
「あれ、僕は……」
 気付いた時には、土蔵にある机の上に突っ伏して眠っていた。そんな僕の顔を、雫が覗(のぞ)き込んでいる。
 裸電球の光が、土蔵の中の石を照らす。日本式双晶も、相変わらずの煌(きら)めきで静かに佇(たたず)んでいた。
「眠っていたのか……」
「幻想を見ていたんだよ」
 雫は微笑む。いつもの、大人びた笑みだ。
「そっか」と僕は笑顔を返す。
 夢か現実か曖昧な、雫が見せてくれたのであろう幻想の中の出来事で、これ以上の言葉は必要無いと思った。
「ミネラルフェア、楽しかったかい?」
「うん。律さんと楠田さんに、色々と教えて貰えて、また一歩、石に近づけた気がする」
 僕は、雫に瑪瑙化した巻貝を見せる。夕焼け色に染まった貝を見て、「これは見事だね」と雫は顔を綻ばせた。
「石英グループだし、雫の友達になれるかなと思ったんだけど」
「だけど?」
「石英グループじゃなくても、僕達は友達だしね。友情を築くのに、組成にこだわるのは野暮かなって」
「ふふっ、そうだね。僕も樹も、この子も、成分が何であろうと友達だ」
 雫は、瑪瑙化した巻貝を愛(いと)おしそうに見つめていた。
 そのそばにある日本式双晶もまた、嬉しそうに瞬いているような気がしたのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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