よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第十話 喪に服す電気石〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 それから、僕はアマネが出品した石をチェックするようになった。
 安価のトルマリンは、あっという間に売約済みになっていく。一体、どんな人の手に渡ったのか気になったけれど、それよりも僕は、喪(も)に服しているトルマリンの行く末が気がかりだった。
 一日経(た)っても、二日経っても、エルバ島から来たトルマリンの買い手は現れなかった。
「だって、地味じゃん」と山下(やました)さんは言っていた。
 確かに、ビビッドな色合いのトルマリン達に囲まれては、眼中にすら入らないかもしれない。
「私は希少性よりも可愛さ重視かな。っていうか、そんなにヤバいトルマリンだって分からなかったし」というのが、山下さんの意見だった。
 写真に映えるような美しい鉱物を集めている人も多いようだし、産地になど興味がないのかもしれない。そして、産地に興味があるような人は年配の人が多いなどという理由で、フリマアプリをあまり見ないのかもしれない。
「あっ、そうか。律(りつ)さんに連絡すればよかった……!」
 日曜日の昼下がり。世田谷の一角にある、『山桜骨董(やまざくらこっとう)美術店』に向かう途中のことだった。
「律さん、ショーでも見たことがないって言ってたし、欲しがるかも」
「それなら、用事が終わったら教えてあげるといいよ」
 僕の隣を歩いていた雫(しずく)が、にっこりと微笑(ほほえ)む。
 これから、祖父の土蔵で見つかった品物を、山桜に持ち込まなくてはいけない。
 僕が持ち運べるくらいの大きさの骨董品だったし、店主のイスズさんにわざわざ来てもらうのは気が引けたので、挨拶がてら行くことにしたのだ。
 イスズさんは気難しい男の人だけど、目に見えないものを感じ取る力がある不思議な人だった。ぶっきらぼうだけど優しいところがあって、僕はもっと話を聞きたいと思っていた。
 イスズさんに惹(ひ)かれるのは雫も同じだったようで、僕が山桜に行くと言ったら、同行すると言ってくれたのだ。
 午後の日差しが心地よい。遠くから聞こえる子供達の遊ぶ声を聞きながら、僕と雫はのんびりと歩く。
 暫(しばら)く行くと、ひっそりと佇(たたず)む木の看板が掲げられたお店が、僕達を迎えた。昭和初期の頃に建てられたのであろう、レトロな造りだった。
「こんにち――」
 は、と続けつつ引き戸を開けようとしたものの、中から話し声が聞こえる。
「お客さんかな」
「珍しいね」
 僕と雫は顔を見合わせた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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