よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第十一話 方解石の憂鬱〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 その日、理科の授業で石を配られた。
 配布されたのは二つの透明な石だった。
 片方は菱形(ひしがた)、もう片方は短い円柱だった。菱形の方はよく澄んでおり、円柱の方は少しだけ白濁していたが、いずれも石の向こう側の景色が透けて見えるほどだった。
「菱形の石は方解石(ほうかいせき)、丸い石はテレビ石っていうんだ」
 理科を担当する岩井(いわい)先生は、僕達に石が行き渡ったのを確認してから、解説を始めた。
 岩井先生はまだ若い男の人で、今年赴任してきたばかりだという。
 優しそうな顔立ちのせいもあってか、クラスの女子に人気があるようだった。今も、女子の何人かが、齧(かじ)り付くような真剣さで授業を聞いている。
 一方、僕は最初の授業の時に、岩井先生から、ちょっとだけ律(りつ)さんや楠田(くすだ)さんと同じような匂いを感じ取っていた。
 この人は、鉱物が好きなような気がする。直感的に、そう思っていた。
 そんなことも露知らず、岩井先生は二つの石を掲げてみせる。
「この二つの石を、教科書に向けてごらん。文字がどんな風に見えるかな?」
「どれどれ……」
 僕達は先生に言われるままに、方解石とテレビ石を教科書の文字に重ねてみる。すると――。
「あっ」
 思わず、声をあげてしまった。
 二つの石は、すんなりと教科書の文字を透過させたのだが、方解石は文字が二重に、テレビ石は文字が浮かび上がって見えたのだ。
 教室のあちらこちらから、僕と同じような声があがる。近くの席にいる学(まなぶ)も、「うわ、なにこれ」と叫んでいた。
「面白いでしょう。テレビ石の正式名称は、ウレックス石というんだけどね。この特徴から、すっかりテレビ石という呼ばれ方の方が定着しちゃって」
 岩井先生は、僕達の反応を見て満足げにそう言った。しかし、学は不思議そうに尋ねる。
「でも、テレビっていう割には、ぼんやりしてません?」
「……昭和のテレビは、そんな感じだったんだよ」
 岩井先生はジェネレーションギャップを感じてか、少しだけしょんぼりした様子で答えた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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