よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第十三話 金剛石の影〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 土蔵の小窓から陽(ひ)の光が漏れる。
 裸電球の明かりに助けられながら、僕は古びた机の上に広げたノートに鉛筆を走らせていた。
 机の上には、抱えられるほど大きな水晶がある。
 透き通ったその姿は、よく見るオベリスクの尖塔(せんとう)のような姿ではなく、ハート形だった。それは日本式双晶(そうしょう)と呼ばれる珍しい水晶で、大きなものは特に希少だという。
「熱心なことだね」
 水晶の隣で、水晶のように煌(きら)めく髪の男の子が、鉛筆を走らせる僕を見守っていた。
 彼は、石精(いしせい)の雫(しずく)だ。
 石精というのは、石に宿る精霊のようなもので、石と縁を繋(つな)いだ人間にしか、見ることが出来ない。雫は、僕の祖父が遺(のこ)した日本式双晶に宿る石精だった。
 ノートに視線を釘付けにしていた僕は、顔を上げる。雫の髪に反射する光が眩(まぶ)しいなと思いながら、こう言った。
「理科の岩井(いわい)先生の宿題だから、つい、気合いが入っちゃって」
「方解石(ほうかいせき)のことを教えてくれた先生だったね」
「うん。地学以外の授業の時も、よく石の話をしてくれて、とっても楽しいんだ」
「そうか。樹(いつき)はちゃんと、外でもいい縁を繋いでいるんだね」
 雫は微笑(ほほえ)む。慈愛に満ちた、温かい眼差(まなざ)しだ。
 中学生の僕と同じくらいの年齢に見えるのに、表情や仕草はずっと年上に見える。亡き祖父と同年代か、それ以上にも見えた。
 僕は、そんな雫に見守られるのが好きだった。両親といる時とはまた違った安心感が得られるし、何より、どんな困難が立ちはだかっていようと、乗り越えようと思える。
「どんな宿題を出されたんだい?」
「身近な石を調べてきなさいって」
 ノートを覗(のぞ)き込む雫に、僕は教科書を見せた。教科書には、大理石や石灰岩、御影石(みかげいし)などが並んでいる。
「ふむ。石材として使われている石のことかな」
「そうそう。普段は意識してないけど、石って落ちているもの以外にも身近にあるんだよね。デパートなんて、壁に化石が埋まってたし」
 僕がノートにまとめているのは、まさに、日本橋の老舗(しにせ)デパートの壁に化石が埋まっていたという話だった。
 調べたところ、どうやら、イタリア産の大理石を使っているらしい。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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