よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第十三話 金剛石の影〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 次の日の朝は、校門を抜けた後も一人だった。学(まなぶ)は部活の朝練があるので、一足先に登校していた。
 ちょっと早く着いてしまったため、校内を歩いている生徒はまばらだった。部活動をしている生徒はそれぞれ朝練の場所にいて、それ以外の生徒はまだほとんど登校していない。そういった、中途半端な時間だった。
 そんな中、生徒指導室の中から怒声が響いて来た。
「うわっ……、ビックリした」
 入江(いりえ)先生の声だった。話している内容はよく聞き取れなかったけれど、とても怒っていることだけは分かった。
 巻き込まれるのも怖いし、早く立ち去ろう。
 そう思って教室に向かおうとした時、生徒指導室の扉が開いた。
「……お前」
 姿を現したのは、石尾(いしお)君だった。僕はとっさのことで、声が出なかった。
「聞いていたのか?」
 石尾君が、僕をねめつける。恐怖のあまり、身体(からだ)が硬直しそうになりながらも、必死になって首を横に振った。
「は、話の内容は、聞こえてない」
「そうか」
 石尾君は短くそう言うと、のしのしと歩き出す。僕もまた、慌てて教室へ向かおうとした。
 二人の足音が重なり、誰もいない廊下に響き渡る。
「……あの、石尾君」
「なんだ」
「どうしてついてくるのでしょうか……?」
 僕の少し後ろをついてくる石尾君に、思わず敬語になりながら尋ねる。
「お前と同じクラスだからだ」
「そ、そうですよね……」
 はは、とぎこちなく笑う。ついでに、僕の隣の席なので、教室に着いても彼と一緒にいることになる。
「……お前、高校に行くんだってな」
 石尾君は低い声で、静かに尋ねる。「うん、まあ……」と僕は生きた心地がしないまま頷いた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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