よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第十四話 黄金の国〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 土蔵にある祖父の遺品は、いつの間にか、何処(どこ)に何があるのかがハッキリと分かるようになっていた。
 美術品は大半が引き取られ、鉱物が入った箱には外にもラベルが貼られて、何が入っているかおおよその把握が出来るようになった。箱の配置は、律(りつ)さんが鉱物の分類順に並べてくれたとのことで、僕はそれに早く慣れようと思った。そうすれば、今よりもずっと、鉱物を探すのが早くなるだろうから。
「えっと、元素鉱物と硫化鉱物、そして、酸化鉱物……」
 僕は、鉱物の図鑑を広げながら、ずらりと並ぶ箱に貼られたラベルを見つめていた。
 僕が唱えたのは、鉱物の化学組成を基にした分類で、大抵の図鑑はこの分類ごとに掲載されている。
 元素鉱物の箱の中には、自然硫黄(いおう)や石墨(せきぼく)、ダイヤモンドなどの、一つの元素から成る鉱物が入れられていて、硫化鉱物の箱の中には、黄鉄鉱(おうてっこう)や黄銅鉱(おうどうこう)などの金属元素と硫黄が結びついた鉱物が入れられている。
 硫化鉱物は、比重が大きい金属鉱物が多く入っていて、もやしのような体形の僕では持ち上げることは出来なかった。
「酸化鉱物の箱は、僕の居場所だね」
 僕が図鑑と箱とを睨(にら)めっこしていると、雫(しずく)が横からひょっこりと顔を出した。
 雫の透き通った髪が、裸電球の光を受けてキラキラと光る。僕はそれに見とれながら、「そうだね」と頷(うなず)いた。
 酸化鉱物は、金属元素と酸素の化合物から成る鉱物を指す。
 その中には、水晶である雫が分類されている石英や、ルビーやサファイヤの原石となるコランダム、遊色が虹色に輝くオパールなどが含まれていた。
 図鑑に書かれているそれぞれの化学式を見てみれば、よく分かる。彼らには、酸素を示すOが必ず含まれている。
「なんか、不思議な感じ」
「どうしてだい?」
 僕の呟(つぶや)きに、雫が首を傾(かし)げる。
「酸素って、僕達が呼吸の時に取り込んでるイメージだからさ。雫達は呼吸をしないのに酸素が入ってるって、不思議だなぁって」
「自発的に酸素を化合出来るか、そうでないかの違いさ」
「あー、そういう。雫達は自然任せのところを、僕達は自分達でどうにか出来るっていうだけか。なんか、酸素って生き物にとっての必需品っていう感じだったから……」
「僕達のような、酸化鉱物にとっても必需品――というか、アイデンティティだね。酸化出来ないと、そもそも、僕達は酸化鉱物になれないし」
「酸化しなかったら……ケイ素だっけ」
「ご名答」
 雫は、とても嬉(うれ)しそうに微笑んだ。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

Back number