よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第十五話 賢者達の石〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 土蔵には、ずっと客人がいた。
 正確には人ではない。客石だろうか。
「あれから、彼には会えないのかい?」
 雫(しずく)が、裸電球の光で髪を煌(きら)めかせながら、僕に尋ねる。僕は、机の上に置いてある小箱を見つめながら、「うん」と頷(うなず)いた。
 小箱の中には、小さなトルマリンが入っている。イタリアのエルバ島で採れた、貴重な黒い頭のトルマリンだ。
 そしてその持ち主は、天城天音(あまぎあまね)さんという人だ。
 天音さんは、亡き父親から鉱物を受け継いだものの、父親が亡くなる原因となった鉱物を嫌っていた。
 それで、受け継いだ鉱物を売り払ってしまおうとしていた。
 そんな天音さんに、僕はイスズさんの店で出会い、この黒い頭のトルマリンを押し付けられてしまったのだが……。
「このトルマリンに宿っている石精(いしせい)も、気が気じゃないだろうな……。縁が繋(つな)がっている天音さんと離れ離れになっているなんて……」
 それこそ、長い間離れていたら、縁が薄くなってしまうのではないだろうか。そんな不安が、日に日に募っていた。
「天音さんが行きそうなところ、足を運んでみているんだけどね。偶然を装って話が出来ないかなって」
「でも、うまくいかない――と」
「うん……。イベント後にも一回見かけたんだけど、僕を見るなり逃げられちゃって。思わず追いかけたんだけど、天音さんは遥(はる)かに足が速くてさ……」
 なにせ、足の長さが違う。それに、こちらは中学生であちらは高校生だ。体力や筋力の差は歴然だった。
「でも、追いかけたのは良くなかったと思う……。少しずつ距離を縮めていこうと思ったのに、逆効果だなって」
「樹(いつき)は、自らを省みることが出来るいい子だね」
 雫は、やんわりと僕を褒(ほ)めてくれながらも、逆効果だったことを肯定した。
「焦っちゃってるのかな、僕」
「焦る気持ちも分かるよ。樹は、鉱物と人との縁の大切さが分かっているし」
 雫の言葉に、「……うん」と僕は頷いた。
「長く離れているからって縁が切れるとは思えないけど、縁が薄くなっちゃうような気はするんだよね。だから、一日も早く天音さんのもとに届けたくて」
 僕は、トルマリンが入った小箱を見つめる。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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