よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

番外編エッセイ①

蒼月海里Kairi Aotsuki

 そうだミュンヘン、行こう。
 そう思い立ったのは、初夏の陽気が感じられるようになった頃だった気がします。
 私は、お小遣いを貯めて初めて買った本が恐竜の図鑑だったというレベルで、幼い頃から地球科学に傾倒していました。そのためか、深海生物や古生物をテーマにした作品を書いていて、この度は、鉱物をテーマにした小説『水晶庭園の少年たち』を出版させて頂く運びとなったのです。
 ここ数年間、私は鉱物に夢中でした。特に、あの美しい姿が形成される過程を想像するのが楽しくてしょうがないのです。
 私は、鉱物を得るために、全国各地で開催されるミネラルショーなるものに参加していました。しかし、様々な鉱物を追いかけているうちに、国内では入手が困難な石に行き当たってしまったのです。
 切っ掛けは、二〇一七年に開催されたミュンヘンミネラルショーの写真でした。
 そこに写っていた石に魅了され、是非入手したいと国内を探してみたものの、目撃した数は片手で数えるほどしかなく、しかも、いずれも非常に高価でした。挙句の果てに、海外のネットショップに手を出すものの、良いものはことごとく売り切れで、新しい商品も追加されないという次第。どうやら新産が無く、ストック品のみを動かしているらしいという話も耳にしました。
 これはもう、日本国内で安穏と探している場合ではありません。
 私は、世界最大規模のミュンヘンミネラルショーに行き、そもそもの切っ掛けであるお店を訪ねようと決意しました。
 知り合いの業者さんにご助力を頂きつつ、連載していた『水晶庭園の少年たち』の原稿料をユーロに換えて、いざミュンヘンへと。
 しかし、そこには大きな問題がありました。
 私は、英語がさっぱり出来ないのです。勿論(もちろん)、ドイツ語なんて全く分かりません。
 その上、海外にも行ったことがないという始末。
 事前に同好の士を誘うものの、流石(さすが)にそこまで行く熱意は無いとか、有休が取れないとかで断られてしまいました。
 ええい、それなら一人で行ってやる、と私は単身ドイツに行くことに。
 パスポートを申請し、海外保険に加入し、独英日会話帳を購入し、ドイツで便利なアプリをスマホに入れ、予約出来る交通機関は事前に予約をし、空港の様子や電車の乗り方を解説している動画をYouTubeで漁って予習をして、万全の態勢で羽田空港へと。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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