よみもの・連載

困った死体は瞑らない

第一話 豆腐の死角(第四回)

浅暮三文Mitsufumi Asagure

   *

「確かに凶器は豆腐だ」
 再び工房に戻ると大黒(だいこく)はアメリと数之(かずゆき)を前に説明を始めた。運転手も兼ねて同行を続けていた所轄は途中、自分の署で用意させられた各種の機器を運び込んでいる。
「大黒、なにから始めりゃいいんだ?」
「ハカリだ。シンクの中の、まだ豆腐が入っている型は、どれくらいの重さだ?」
 大黒の言葉に数之が所轄に顎で指示する。所轄は水に沈むステンレス製の型に手を伸ばした。
 業務用のサイズだ。水中では浮力があるため、楽に動かせるが水から引き揚げるとそれなりに重さがあるようだ。所轄が中身をこぼさぬようにハカリに載せた。数之が目盛りを確かめる。
「結構な重量だ。約十二キロある」
「型の重さを差し引くとどうだ?」
 指示される前に所轄がシンクの空っぽの型を数之に渡す。
「二キロほどある。豆腐だけなら、差し引きざっと十キロ弱だぜ」
「ここの豆腐は一丁が三百グラムだ」
「この型ひとつで豆腐を八列にして四分割だ。となると仕上がるのは三十二丁分だな」
「俺たちは後頭部に残されていた分量にめくらましされた。切らなくてよかったんだ」
「つまり、丸ごと十キロサイズを凶器にしたってえのか」
「そうだ。正確には切ったものでは駄目なんだ。数之、お前がいってたように一丁分なら新幹線やロケット並みのスピードで被害者にぶつける必要がある」
「だがその三十二倍となると話が変わってくるわけか。一丁を三十二回ぶつけても三百グラムの連打だが十キロクラスならってことだな。それでこいつをどうやったんだ」
「上だ」
 大黒は吹き抜けの天井を見上げた。
「この高さなら八メートルは軽くあるだろう。あそこから型の中身を被害者の頭に落とす。木綿は型の底に布を敷いている。だから簡単に中身が抜ける」
「ははあ。確かにそれなら分かる。猛スピードでない分、落下中に自重で潰れることはない。十キロの生コンクリートか土砂か、そのレベルの物質が頭に落ちてきたのと同じだ。柔らかい一本の杭(くい)みたいになるわけか」
「あの」
 黙っていた所轄が口を開いた。
「なんだ。昭和のギャグに付き合ってる暇はない。話の腰を折るな。大事なところなんだ」
 数之にたしなめられて所轄は口を閉じた。

プロフィール

浅暮三文(あさぐれ・みつふみ) 1959年兵庫県生まれ。関西大学卒業後、コピーライターを経て、98年『ダブ(エ)ストン街道』で第8回メフィスト賞を受賞しデビュー。2003年『石の中の蜘蛛』で第56回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。著書に『ラストホープ』『実験小説 ぬ』『10センチの空』『セブン opus2 古い街のひそかな死』『私立警官・音場良 ロック、そして銃弾』『誘拐犯はカラスが知っている 天才動物行動学者 白井旗男』ほか。

Back number