よみもの・連載

困った死体は瞑らない

第一話 豆腐の死角(第四回)

浅暮三文Mitsufumi Asagure

「ははあ、なるほどな。わかった。所轄、縄ばしごを出して、あの棟木にひっかけろ。どんな状況になるか、試してみよう」
 数之の指示で運んできた機材から所轄が縄ばしごを取り出すと天井を見上げた。はしごの先には手鉤(てかぎ)がついている。
「ええと、投げてひっかければいいんですよね」
 理解した所轄は縄ばしごを投げ縄のように回し、カウボーイよろしく棟木に投げた。縄ばしごはうまく棟木の端にひっかかっている。
「お前、警官よりも牧童に向いてるぜ。今度はロープを渡せ」
 数之はロープを受け取り、棟木へと登っていった。
「こいつに中身の入ってる型を結べ。引き揚げるときにひっくり返らないように注意しろよ」
 棟木に達した数之はロープを垂らして指示している。所轄は型の左右にある持ち手にロープを通し、バランスを上手く取って結び終えた。数之はそれを引き揚げていく。
「丘はロープを二本使ったのかもな。よし。到着。それでだ。へへへ、被害者の役が必要だな。所轄、お前、俺の真下に立ってろ」
「え? ですがその凶器が本官の頭に落ちてくるんですよね。となると」
「ああ、大黒の推理通りならお前は二階級特進だ。警官の鑑(かがみ)だな」
 所轄は困ったように大黒とアメリを見やった。
「ほら、そこにポリバケツがあるでしょ。それをかぶってれば大丈夫よ」
「本当ですか」
 アメリの言葉に数之も棟木から声をかける。
「所轄、心配するな。昨晩、ヘルメット会社のサイトを見たっていっただろ。安心しろ。プラスチックなら万全だ」
 二人の言葉に所轄は工房にあったポリバケツを下げると数之の真下にいき、おっかなびっくりバケツをかぶった。
「少し前屈(かが)みになれ。被害者は作業姿勢で後頭部に豆腐を落とされた」
 所轄はいわれて上半身を倒した。かぶったポリバケツを両手で支えている。
「アーメン」
 棟木から一声あると丸太のような白い影が所轄を目がけて落ちてきた。ぼすん。不機嫌な音を立てて豆腐はバケツに命中した。同時に所轄はバケツをかぶったまま、床に倒れ込んだ。
「生きてるか? どっちでもいいが、そのままでいろ」
 棟木から声をかけると数之が降りてくる。倒れ込んだ所轄の周りには十キロの豆腐がどっさりと山を築いていた。
「思ったほど飛び散らなかったな」
 所轄の横で数之が状況を見やった。豆腐の粘度のせいだろう。ほとんどがバケツの横にふりわけられたように盛り上がっている。
「名人の作った豆腐だ。しっかり腰がある。この歯ごたえが人気なんだろうな」

プロフィール

浅暮三文(あさぐれ・みつふみ) 1959年兵庫県生まれ。関西大学卒業後、コピーライターを経て、98年『ダブ(エ)ストン街道』で第8回メフィスト賞を受賞しデビュー。2003年『石の中の蜘蛛』で第56回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。著書に『ラストホープ』『実験小説 ぬ』『10センチの空』『セブン opus2 古い街のひそかな死』『私立警官・音場良 ロック、そして銃弾』『誘拐犯はカラスが知っている 天才動物行動学者 白井旗男』ほか。

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