よみもの・連載

困った死体は瞑らない

第一話 豆腐の死角(第四回)

浅暮三文Mitsufumi Asagure

   *

 大黒らが修道院に到着すると森田は食堂にいた。時刻はすでに夕刻になっている。
「ほほい、きたかね。残念ながら遅かった」
「なんだと? 爺さん、ピエール丘がここにいたんだろ? 不法侵入だったら、とりあえず逮捕できたのに逃がしたのか? 合気道の達人だろうが」
「いいや。闇鍋のことだよ。ほとんど食べ終わっちまったんだ」
 礼拝堂と棟続きの食堂はガラス戸が開け放たれて、庭先に焚(た)き火の跡がくすぶっている。奥ではシスターを始め、修道女たちが食器を洗っていた。
「ニワトリの頭なら、いくつか残ってるが、どうするね」
「爺さん、食事にきたんじゃねえ。一体なにがあったんだ?」
 数之が森田の前の椅子に音を立てて座った。一同も車座になる。
「逃がしちゃあ、いないよ。ここにちゃんといるさ。慌てなさんな。数(かず)ちゃんは、どうしていつも話の腰を折るんだろうね」
「どこにいるんだ? 電話じゃ確かめろっていってたが、また長い話になるんじゃないだろうな。こっちは忙しいんだ」
「分かったわい。実はじゃ。さっき、みんなで鍋を食いながらこのビデオを見てたんじゃよ」
 食堂は娯楽室も兼ねているようで大画面テレビが設置されていた。森田はテーブルにあったリモコンを取り上げると再生ボタンを押した。
「爺さん、ビデオって例のドクドク修道女とか、チャック・オリスがどうとかってやつか? するとピエール丘は映画に出てたのか? 奴はアメリカで俳優をやってたのか?」
「見れば分かるよ。ほら、始まった。いいねえ、いきなり活劇だ。チャック・オリスはそもそも空手の達人でな。このホラーには、たっぷりアクションシーンが盛り込んである」
 始まったビデオは主役のチャック・オリスが数人の男に絡まれている修道女を助けるシーンから始まった。
「すると丘はやっぱり武道家だったのか。それは分かったが、ずっと見てなきゃ、いけないのか? 爺さん、問題のシーンに早送りしてくれよ」
「いや、武道家ではない。だがある意味でファイターといえるな」
「なんのことだ?」
「いいから見てな。もうすぐだ。それにここがいいところ。噂(うわさ)の入浴シーンじゃ」
 森田が数之の言葉を制して画面を指さした。映像はコインランドリーで裸になったチャック・オリスがシャンプーをつかんで洗濯機の中に飛び込んでいる。
 するとそこへ敵方の水着姿の美女がダイナマイトを持って走り込んできた。導火線がみるみる燃えて、あわや爆発。というところでコマーシャル。
『まあるい緑の山手線、真ん中通るは中央線』家電量販店の十五秒CM×二回。
『ハリハリフレホー、大きくなれよ』ハンバーグの十五秒CM×二回。
 最後にその夜に放映する番組宣伝が入り、映画が再開。爆発すると思った導火線を目がけて洗濯機の中からチャック・オリスがシャンプーをほとばしらせる。さっと消える火花。オリスの裸に悶絶(もんぜつ)する水着美女。
「ということじゃ。どうだい?」
 森田はリモコンでビデオ映像を静止させた。

プロフィール

浅暮三文(あさぐれ・みつふみ) 1959年兵庫県生まれ。関西大学卒業後、コピーライターを経て、98年『ダブ(エ)ストン街道』で第8回メフィスト賞を受賞しデビュー。2003年『石の中の蜘蛛』で第56回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。著書に『ラストホープ』『実験小説 ぬ』『10センチの空』『セブン opus2 古い街のひそかな死』『私立警官・音場良 ロック、そして銃弾』『誘拐犯はカラスが知っている 天才動物行動学者 白井旗男』ほか。

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