よみもの・連載

困った死体は瞑らない

第一話 豆腐の死角(第四回)

浅暮三文Mitsufumi Asagure

「どうだいってなにがだ?」
「そうか。数ちゃんも見落としたか。このビデオは幻のホラーなんじゃ。だもんでわしは一年に一度は勉強のために必ず見る」
「だから、どうしたんだ。話が長いぞ」
「一年に一度は見るわしだが、さっき見ててやっと気が付いた」
「森田さん、このビデオに丘が関係しているのですか」
 大黒は話の先をうながした。森田が映像を巻き戻しながら告げた。
「ここだよ。よく見てな」
 始まったのは番組宣伝だった。
『今晩九時から放映! 日本大食いコンテスト!』
 司会のタレントの声にいくつかのシーンが入れ替わる。
『北海道・東北予選は鮭(さけ)のつかみ取り、丸食い対決だ』
 石狩川(いしかりがわ)を遡(さかのぼ)る鮭。それをつかみ取りしているのはコンテスト出場者らしい。
『関東甲信越は超高速回転寿司の死闘』
 皿が飛ぶほどのスピードで回る回転寿司を追いかけながら食べる選手たち。
『関西は木の葉丼の大盛り食い倒れ』
 そこで森田が画像を静止させた。通天閣(つうてんかく)の下で長テーブルが設置され、その前の椅子に座った五名ほどが丼をかき込んでいる。
「さっき、わしも顔がくっつくぐらいにして見たんだが目が悪いから自信がなくてな。だけどたぶん、見せてもらった男だと思うんじゃ」
 大黒らは森田の言葉にテレビの前にいくと視線を凝らした。女性が二名、男性が三名。いずれも若い。二十代から三十代だろうか。
 森田が映像を少し進めると一人の選手がアップになった。丼を手にしているのは朴訥(ぼくとつ)そうな青年だ。黒縁の眼鏡でドジョウ髭(ひげ)は生やしていない。
 しかし、それでも一目で丘と分かる。というのも青年は白い上下のスーツにピンクのシャツ。白いエナメルの靴を履いている。胸にはKOBE代表のゼッケンがうかがえた。
「とほほ、こっちが恥ずかしくなるぜ。この頃から出来損ないの青春映画の登場人物みたいな恰好をしてたんだな。テレビ出演だから張り切ってるんだろうが、お上りさんもいいところだ。人前でこんな恰好が平気なのはあいつしかいないぞ」
 数之がつぶやいた。よく見ると現在の丘を彷彿させる部分があった。
「奴(やっこ)さん、大食いコンテストの選手だったのか。爺さんが、どこかで見たことがあるってのは、このシーンのことだったんだな。よく見つけたな」
「幻の傑作だ。何度も見返したから頭のどこかに残ってたんだろうさね」
「随分、若いな。このビデオは何年前のものだ?」
「三十年ほどかな。わしのようなホラーマニアじゃなきゃ、録画して残さないだろうね」
「そうか。TV放映があったとしても三十年前のことなら、爺さん以外は憶(おぼ)えちゃいないな」
「こいつ、この当時は違う名前だったみたいだよ。あんたらがくる前に、この番組に関してネットで検索したら『懐かしの昭和テレビ番組』ってサイトに内容が出てた」
「あ、それは本官もよくアクセスしてます。昔の番組に関しては一番なんです」
 所轄が思わず同意した。森田も同感らしく、うなずいた。

プロフィール

浅暮三文(あさぐれ・みつふみ) 1959年兵庫県生まれ。関西大学卒業後、コピーライターを経て、98年『ダブ(エ)ストン街道』で第8回メフィスト賞を受賞しデビュー。2003年『石の中の蜘蛛』で第56回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。著書に『ラストホープ』『実験小説 ぬ』『10センチの空』『セブン opus2 古い街のひそかな死』『私立警官・音場良 ロック、そして銃弾』『誘拐犯はカラスが知っている 天才動物行動学者 白井旗男』ほか。

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