よみもの・連載

困った死体は瞑らない

第二話 世界一重たい茹で卵(第二回)

浅暮三文Mitsufumi Asagure

「日高山関はどんな人間だったと思う?」
 大黒は二人に尋ねた。
「グリーンジャイアントのモデルだな」
「大きいけど勤勉だったみたい」
 アメリがベッドサイドを指さして告げた。作りつけの棚に目覚まし時計がふたつ置かれていた。大黒はそれを指先で操作した。起床時間の設定はいずれも午前六時半になっている。必ずその時間に起床するためだろう。
「相撲取りは早起きなんだな」
 数之が再び感想を述べた。寝室のテーブルに地図帳が置かれていた。付箋(ふせん)がついている。そのページを開くと幹線道路の略図に自宅からどこかへの経路がマーカーでなぞられている。
「まっすぐ南下してるな」
 数之が道順を確かめた。
「日高山はどこの部屋だ」
「ほほい。丸子(まるこ)部屋じゃ。町田だよ。まっすぐ南にくだった方だわ」
 振り返ると森田がたたずんでいた。いつの間にきたのか、なにかを咀嚼(そしゃく)している。
「爺さん、なにを食べてるんだ?」
「肉まんじゃ」
「肉まん? この暑いのによく手が出たな。あんた、冷蔵庫の物に手を付けるなよ。一応、遺留品だ」
 日高山関はどこでアルミニウム粉と酸化鉄を全身に浴びたのか。問題の核心はまだ解けていない。
「部屋へ向かおう」
「大黒、すると関取は今日、部屋にいたってことか」
「今日は平日だ。おそらく稽古だろう。そこに車のキーがある」
 大黒はテーブルにあったキーを指さした。
「なるほど。自分で運転してか。ここからなら一時間ちょっとだが、馬を飼うためには早起きもなんのそのか」
 大黒はアメリと数之をともなって外へ出た。馬小屋に視線をやる。その横は屋外ガレージらしい。屋根の下に大きなバンが駐車されていた。隣に馬を運搬するトレーラーもある。だが室内で推測したようなアトリエや作業場らしき場所は見当たらない。数之がつぶやいた。
「大黒、馬はお前がなんとかしろよ」

プロフィール

浅暮三文(あさぐれ・みつふみ) 1959年兵庫県生まれ。関西大学卒業後、コピーライターを経て、98年『ダブ(エ)ストン街道』で第8回メフィスト賞を受賞しデビュー。2003年『石の中の蜘蛛』で第56回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。著書に『ラストホープ』『実験小説 ぬ』『10センチの空』『セブン opus2 古い街のひそかな死』『私立警官・音場良 ロック、そして銃弾』『誘拐犯はカラスが知っている 天才動物行動学者 白井旗男』ほか。

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