よみもの・連載

困った死体は瞑らない

第二話 世界一重たい茹で卵(第三回)

浅暮三文Mitsufumi Asagure

「さ、さっき、運んでいた段ボール箱は?」
「ああ、宮古関の差し入れですよ。現金と一緒に持ってきました。肉まんが十五箱ほどでしたか。なんでもタニマチの一人が食品の卸(おろし)だそうで。夏場は余り気味だからもらったっていってましたね。わしらには暑さ寒さは関係ありません。日高山にも何箱か持たせましたよ。夜食には最適ですからね」
「立てよ、夏場の肉まんだとさ」
 大黒はなんとか立ち上がった。
「もう理解してるよな」
 数之の言葉に大黒は手を上げると呼吸を整えるのを待つように合図した。そしてやっと聞き込みを再開した。
「け、稽古の時にはいつも塩を使うのですか」
「ええ。人によりますけれど。そういえば今日の宮古関は特に塩を使ってましたね。付き人に持たせたのを土俵に撒くだけじゃなく体にもぱんぱんとはたき込んでましたよ」
「宮古関ですが、なにか新しい趣味を始めたとか、そんな話をしてませんか」
「ああ、よく分かりましたね。昼のちゃんこの時でしたが、陶芸を始めたといってました。先場所から近所の教室に通ってるとか。無心になるための修行だそうです。陶芸は禅の精神に通じるとかなんとか。あいつはインテリです。大学相撲の出身でして、考えることが高尚なんですかね」
「大学の学部は」
「工学部だったかな」
「携帯を貸してくれ」
 大黒の言葉に数之は、にやつきながら端末を渡してきた。大黒は勝手知ったる番号をプッシュした。
「森田さん、さっき食べていた肉まんはどこで手に入れたのですか」
 のんびりした声が端末の向こうで返答してくる。
「キッチンだよ。一番下の電子レンジの中に入ってた」
「そのレンジで温めて食べたのですか」
「いや、取り出して上のでチンしたよ。低くて使いづらいからの」
「すると一番下のはいじってませんね」
 森田の肯定を聞いて大黒は改めて日高山の家にいる所轄にかけ直すと指示を与えた。森田のいった一番下の電子レンジの確認だ。加えて出入り口にピッキングの痕跡があったかどうかの捜査も付け足した。応答を聞いていたアメリと数之が言葉を待っている。
「親方、日高山関の通夜は明晩、自宅でだと角界にアナウンスしてもらえますか。ただし、今夜から準備をしているので焼香にきていただいてもかまわないと」
「ええと、日高山の遺体がまだ戻ってません。検死があるとかで。通夜はもう少し先でないと」
「いえ、遺体なしの通夜です。つまり本当の通夜じゃない」
 一連の情報で大黒は推理を固めていた。そしてトラップを仕掛けることにした。
「今晩、できるだけ大勢が集まるように声をかけてください。それと内密に伝達して欲しい情報があります」
 大黒はその内容を説明した。脳裏にある推理が正しければ関係者の協力が必要になる。
「服を着てきなさいよ」
 大黒にプールサイドと同じ言葉がアメリから放たれた。数之も続けた。
「話が終わったみたいだな。よかったじゃないか、火を付けられなくて」
「ちぇっ、花火になる大黒を見物したかったのに。残念だわ」

プロフィール

浅暮三文(あさぐれ・みつふみ) 1959年兵庫県生まれ。関西大学卒業後、コピーライターを経て、98年『ダブ(エ)ストン街道』で第8回メフィスト賞を受賞しデビュー。2003年『石の中の蜘蛛』で第56回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。著書に『ラストホープ』『実験小説 ぬ』『10センチの空』『セブン opus2 古い街のひそかな死』『私立警官・音場良 ロック、そして銃弾』『誘拐犯はカラスが知っている 天才動物行動学者 白井旗男』ほか。

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