よみもの・連載

堂場瞬一×神田松鯉 作家デビュー20周年記念スペシャル対談
求道の途中で

 
構成/宮田文久 撮影/大槻志穂

神田
おっしゃる通りで。お客さんに支えていただいている私も、先生の御作では読者として、いろいろと読ませていただいております。とっつきは「刑事・鳴沢了シリーズ」で、一気にひきこまれたんです。それがきっかけになって、『検証捜査』にはじまる一連の作品も全部読みました。神奈川県警の捜査ミスを追及するため全国から刑事が六人、はみ出し者が集められて、チームができていくところからはじまる話ですよね。あれを読んで私は、『水滸伝』の梁山泊だと思ったんです。そういう意識はなかったですか。
堂場
いえ、今はじめていわれて驚いています。『水滸伝』という意識はなかったですが、勇者を集めてくる話というのは、いわば古典的な物語の枠組みですよね。それを一回やってみたかったんです。
神田
みんな才能がありながら、何かでしくじっている連中が集まってくる。ああいう発想が面白いですね。
堂場
人間、ちょっと失敗しても誰かが手を差し伸べてやれば何とかなるという、希望の話でもあるかなと思います。いやはや、最初からすごい読みをいただいてしまいました。
神田
ほかにもたくさん、たとえば「被害者支援課シリーズ」もすべて読みました。読みはじめると連続テレビドラマと同じで、やめられなくなるという傾向がありますね(笑)。
堂場
やっぱり最後まで読んでいただきたいという気持ちが強いので、シリーズの途中で謎を入れこむことはありますね。次も、次も……という感じで読んでいただけるようなテクニックは、常に考えてやっています。
神田
先生の御作をいろいろ拝読していると、たとえば他のシリーズの主人公の名前が、別の作品に出てくることが、ときどきありますよね。「あれっ、こんなところに出ている」ということが度々あって、楽しいです。
堂場
何本もシリーズがありますから、作者の楽しみでやっているのですけれど、読者の方も喜んでくださっているようで。ちょっとした洒落っ気というんでしょうか。なにせ大体は人が殺されるようなひどい話を書いていますから(笑)、そこは少し遊び心を、と。
神田
ほかにも作品の特徴として、よく体の大きい人が出てきますね。二メートル近いような身長の人がたびたび登場します。あれは先生のお好みみたいなものがあるんですか。
堂場
そうです、まさに僕が、あと十センチぐらい身長が欲しかったんですよ(笑)。もう十センチ高かったら人生が変わっていたと思うので、そういう憧れが小説ににじんでいます。あと、大きい人間がいると、小説の重石になるんです。こいつがいると頼りになる、という空気が出るんですよ。
神田
味方はもちろん、悪のほうでもデカいのが随分と出てきますね。
堂場
はい、悪の側は迫力がないと、ということで。
プロフィール

堂場瞬一(どうば・しゅんいち) 1963年、茨城県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒。2000年、第13回小説すばる新人賞を受賞し、2001年1月、デビュー作『8年』を刊行。2013年、読売新聞社を退社し、作家専業に。2020年までの出版点数は152冊。
最新刊は10月26日刊行予定の『幻の旗の下に』。

神田松鯉(かんだ・しょうり) 1942年、群馬県前橋市出身。 講談師・人間国宝。日本講談協会、落語芸術協会所属。日本講談協会では名誉会長を、落語芸術協会では参与を務める。1970年、二代目神田山陽に入門。1992年に 三代目 神田松鯉を襲名。1988年、文化庁芸術祭賞を受賞。長年の講談界全体への功績が認められ、2019年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。