よみもの・連載

堂場瞬一×神田松鯉 作家デビュー20周年記念スペシャル対談
求道の途中で

 
構成/宮田文久 撮影/大槻志穂

神田
もうひとつの特徴としては、新聞記者でも刑事でも、足で稼ぐ≠ニころがありますね。先生が以前、新聞記者をなさっていたというご経歴を拝見したこともあって、まさに「現場百遍」という言葉を連想していました。鳴沢了が靴を磨くのが趣味というのも、そういうところからきているのかな、と。
堂場
もちろん刑事というのは、普通はもっと安い靴を買って履きつぶすようにしている人も多い。でもたまには、鳴沢のように、靴だけは高いものを履いているという人物がいてもいいかな、ということなんです。
神田
登場人物に豪華な腕時計をさせている作品もありますね。
堂場
はい、登場人物に、ちょっとだけ贅沢をさせてあげたいという気持ちがありまして。
神田
一点贅沢主義(笑)。
堂場
本当に、一点だけです(笑)。普段からいいものを食べたり、いい服を着ていたりすれば、ただのお金持ちの世界になっちゃいますから、そうではなくひとつだけ贅沢をさせる。靴や時計といったディテールから、その人の性格などが見えてくるように、意識して書いています。
神田
事件を解決するにしても、その日常の積み重ねの先の話ですものね。
堂場
実は細かいところは別に書かなくてもいいし、なくても事件は解決するんです。ただ、そこを書くことで、登場人物が血の通った人間になっていくんですよね。
神田
頻繁に食事の場面も出てきますね。
堂場
すみません、それも僕が食べるのが大好きなもので……。
神田
しかも書かれるのは圧倒的に、洋食と中華が多いでしょう(笑)。
堂場
脂っこいものが好きでして。僕が普段控えるようにしている分、作中人物たちにも食べさせたいんですね(笑)。
神田
「食事」というのは、先生の作品のひとつの名物になるかもしれないですな。
堂場
実際、そういうふうに読んでくださっている方は多いようです。先ほどの贅沢と似て、何を食べているかで登場人物の性格がわかると思うので、これからも食べるシーンはずっと書いていくはずです。
神田
それにしても次々に作品を出されていくスピード、このご健筆というのはすごい。
堂場
やっぱりそこには、記者時代の経験が多少影響していると思います。時間がないなかで書かなきゃいけないというのが身にしみついていて、途中まで書いてほうっておくということができない。とにかく書いて終わらせないと、気が済まないんですよ。
神田
あまり突っ込んだことを聞いてしまうと失礼かもしれないのですが、バーッとお書きになって、そこから推敲もなさるんですか。
堂場
推敲はたくさんします。したうえで、担当編集者たちから厳しいツッコミをもらって、助けてもらう。それでようやく、世に出る小説のかたちになっていきます。
神田
なるほど。先生の書かれるシリーズというのは、私らの講談でいうと、長編連続講談になるんですよ。私はずっと長編連続講談を伝承してきまして、また後輩にも伝承していく、その務めがあると思ってやっています。
プロフィール

堂場瞬一(どうば・しゅんいち) 1963年、茨城県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒。2000年、第13回小説すばる新人賞を受賞し、2001年1月、デビュー作『8年』を刊行。2013年、読売新聞社を退社し、作家専業に。2020年までの出版点数は152冊。
最新刊は10月26日刊行予定の『幻の旗の下に』。

神田松鯉(かんだ・しょうり) 1942年、群馬県前橋市出身。 講談師・人間国宝。日本講談協会、落語芸術協会所属。日本講談協会では名誉会長を、落語芸術協会では参与を務める。1970年、二代目神田山陽に入門。1992年に 三代目 神田松鯉を襲名。1988年、文化庁芸術祭賞を受賞。長年の講談界全体への功績が認められ、2019年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。