よみもの・連載

堂場瞬一×神田松鯉 作家デビュー20周年記念スペシャル対談
求道の途中で

 
構成/宮田文久 撮影/大槻志穂

堂場
いいお話ですね(笑)。小説の側から見て講談がうらやましいと思うことは絶対にあるでしょうし、通底するものは必ずある。僕は今年デビュー二十周年なのですが、まだまだ勉強しなきゃいけないとつくづく感じました。人間国宝になられている神田先生は、芸を磨き続ける姿勢をどうお考えですか。
神田
それほど格式張って考えたことはありません。ひたすら、亀のような歩みでやってきました(笑)。若い頃から、これで食えるかどうかもわからないままに、とにかく生涯講談をやっていこうと思って純粋に取り組んできただけなんです。
堂場
余計なことを考えないのがいいんですかね。
神田
そもそも作家の先生方とは違って、私らはいわばアウトローですから……(笑)。
堂場
とんでもない、我々もアウトローですよ(笑)。
神田
あと先生は二十周年とおっしゃるけれど、記者時代からのキャリアを考えれば、もっと書いているわけですよね。
堂場
いや、小説家としては、まだひよっこだと思っていますから。
神田
なるほど。芸界も、二十年というのはひとつの節目だと、昔からいいます。十年やると他人の芸がわかるようになる、二十年やると自分の芸が見えてくる、というんですね。これは芸界に伝わっている、昔からの言葉でございますね。作家の先生の世界とは違うから、この言葉がどれほどあてはまるかはわかりませんが……すくなくとも私は、ただ、ひたすらにやってきたというだけの話なんです。
堂場
僕も、基本的にはそうなんです。五十年間、八十七歳になるまでは書き続けて引退しようと思っているんですが、とにかくそこまで書こう、ということしか考えていません。
神田
ぜひ、それを貫いてください。
堂場
もう余計なことはせず、小説だけ書いていたいんです。今日のお話をうかがっていて、そんなに間違った道は歩んでいないのかな、という気がしてきました。とても心強い思いがします。そうだ、今年の十二月に警察小説の新刊を予定しているので、ぜひご覧いただければ嬉しいです。同じシリーズのなかで一冊ずつ主人公を変えていく、リレー形式という新しい試みなんです。
神田
それは楽しみですね。こちらこそ、今日はお目にかかれて嬉しかったです。
プロフィール

堂場瞬一(どうば・しゅんいち) 1963年、茨城県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒。2000年、第13回小説すばる新人賞を受賞し、2001年1月、デビュー作『8年』を刊行。2013年、読売新聞社を退社し、作家専業に。2020年までの出版点数は152冊。
最新刊は10月26日刊行予定の『幻の旗の下に』。

神田松鯉(かんだ・しょうり) 1942年、群馬県前橋市出身。 講談師・人間国宝。日本講談協会、落語芸術協会所属。日本講談協会では名誉会長を、落語芸術協会では参与を務める。1970年、二代目神田山陽に入門。1992年に 三代目 神田松鯉を襲名。1988年、文化庁芸術祭賞を受賞。長年の講談界全体への功績が認められ、2019年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。